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『はつこい』

第4章 『近づく恋の音』


☆ 先輩 視点 ☆


玄関で靴を履きながら、さっきまでのリビングの騒がしさが嘘みたいに静かになる。

蓮たちはまだ中で何か言い合って笑っているのに、ここだけ空気が少し違う。

「今日はありがとうございました」

後ろから聞こえた声に振り向くと、咲がドアの横に立っていた。
学校で見るときより、少しだけ柔らかい表情。

「こっちこそ。飯、うまかった」

そう言うと、咲は一瞬目を丸くしてから、少し安心したみたいに笑った。

「よかったです…ちょっと緊張してたので」

「なんで」

「…家族以外に作ることないもん…」

思わず小さく笑う。

「はじめて?」

「そうですよ…」

少し照れたように視線を逸らす仕草を見て、なんとなく帰るのが惜しくなる。

「また来てもいい?」

口に出してから、自分でも少しだけ早かったかと思ったけど、咲は驚いた顔のあと、すぐに小さくうなずいた。

「はい。また来てください」

その答え方が、妙に素直で――胸の奥が少しだけ軽くなる。

ドアノブに手をかけて外に出ようとして、ふと足を止めた。

「なあ」

「はい?」

振り返ると、少しだけ不安そうな顔。
さっきまで双子にからかわれて笑っていたときとは違う、静かな表情。

「家だとさ」

言葉を探すみたいに少しだけ視線をずらす。

「なんか、学校より普通に話せるな」

「……そう、ですか?」

「うん。なんか、距離近い感じする」

咲は少しだけ戸惑ったあと、ほんの少しだけ笑った。

「私も、ちょっとだけ思ってました」

その答えを聞いて、思わず小さく息を吐く。

「今日、普通に楽しかった」

飾らずに言ったつもりだったけど、咲の頬が少しだけ赤くなる。

「私も、です。来てくれて…嬉しかったです」

その言い方が、想像してたよりずっと素直で、目を逸らしたくなる。

「じゃあ、また近いうち」

「はい。気をつけて帰ってください」

ドアを開けて外に出ると、夜の空気が少し冷たい。
けど、さっきまで家の中にいた感覚がまだ残っていて、不思議と足取りは軽かった。

――次に来る理由、もうできてるな。

そんなことを思いながら、ポケットに手を入れてゆっくり歩き出した。
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