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『はつこい』

第4章 『近づく恋の音』



体育館倉庫の中は、外より少しだけひんやりしていた。

棚に並んだボールを探しながら、凛人先輩が何気ない声で言う。

「今日、あちぃーな」

「そうですね。体育のあとだから余計に……」

「さっき走ってたなー」

「見てたんですか?」

「まあ、たまたま」

軽く笑いながら答える先輩に、なんとなく少しだけ緊張がほどける。
倉庫の中には、ボールが棚に当たる小さな音だけが響いた。

少し沈黙が続いたあと、先輩がボールを手に取ったまま、ふとこちらを見る。

「……さっきさ」

「はい?」

「なんの話してた?」

「え?」

「グラウンドで。男子と話してただろ」

その一言で、胸が小さく跳ねた。

「クラスの人です。体育のグループ同じで……順番のこととか、そんな感じです」

そう答えると、先輩は「そっか」と短く返す。

でも視線が少しだけ逸れていて、なんとなく違和感を感じた。

「……先輩?」

「ん?」

「もしかして、気にしてました?」

少しだけ恐る恐る聞くと、先輩は一瞬黙ってから、小さく息を吐いた。

「……ちょっとな」

「え」

「窓から見てたら、結構楽しそうに話してたから」

思いがけない言葉に、顔が一気に熱くなる。

「ただのクラスメイトですよ」

「分かってる」

そう言いながら、先輩は少しだけ近づいてくる。

倉庫の狭さのせいで、自然と距離が近くなる。

「分かってるけど、なんか……普通に嫌だった」

低い声でそう言われて、心臓が強く鳴った。

「……すみません」

「ふっ… なんでお前が謝んの」

少し間を置いてから、先輩は小さく笑う。

「俺が勝手に思っただけ」

それでも、さっきより距離はそのままで、近いまま。

「でも次、もし話してるの見かけたら」

「はい?」

「あとでまた聞くかも。さっきみたいに」

少しだけ意地悪そうに言われて、思わず笑ってしまう。

「ちゃんと答えますね」

「ん、それでいい」

そう言って先輩は扉の方へ歩き出すが、開ける直前、ふと振り返った。

「……ちなみに」

「はい?」

「目、合ってたのは気づいてた?」

「……はい」

小さくうなずくと、先輩は少しだけ満足そうに目を細めた。

「ならいい」

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