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『はつこい』

第3章 『気になる音』


《3年生 教室トーク》

昼休み明けの教室は、まだ少しざわついている。
窓際の席に座った凛人は教科書を開きながらも、どこか上の空だった。

「なあ〜」
前の席から椅子を逆にして振り向いてきたのは蓮だった。

「凛人さ」

嫌な予感がして顔を上げない。

「咲のこと、気に入ってるよな?」

即球だった。

「……は?」

間髪入れずに、隣の席から桜も乗ってくる。

「だよね。最近さ、よく目で追ってる」

「追ってない」

即答。
けど、否定が早すぎたのか二人は顔を見合わせてニヤッとする。

「ほら」「今の」

「何が」

「自覚ないタイプだ」

蓮が面白そうに笑う。

「購買のときもさ」
「岩田妹、って呼び止めてたじゃん」

「あれ見てたのかよ」

「見えるだろ、普通に」
「廊下のど真ん中で」

桜が肩をすくめる。

「しかもクリームパン」
「絶妙すぎ。優しさの塊」

「別に。頼まれただけだ」

「頼まれてないでしょ」
「聞いてたよ。“何食うん?”って」

凛人は、教科書のページを一枚めくる。
意味はあまりなかった。

「で?」

蓮が身を乗り出す。

「午後の授業中」
「窓の外、ずーっと見てたよね」

一瞬、手が止まる。

「体育やってたから」

「その中でも」
「咲だけ」

桜が指を一本立てて、追い打ちをかける。

「チャイム鳴るまで」

「……偶然だろ」

「出た」「偶然」

蓮が吹き出す。

「凛人ってさ、ほんと分かりやすいのに」
「自分だけ分かってないよな」

「別に、そういうのじゃない」

そう言いながら、
凛人はもう一度、窓の方を見る。

姉はそれを見逃さなかった。

「ほら」「今も」

「何も見てねぇ」

「見てた」
「……気になるだけでしょ」

その一言に、凛人は少しだけ黙った。

気になる。
否定は、できなかった。

「ま、いいじゃん」

蓮が軽く手を叩く。

「咲、いい子だし」「俺らの可愛い妹だし」

「余計なこと言うな」

「いやいや」
「応援する側としては重要」

桜も頷く。

「うん。見てて安心する」

凛人は、小さく息を吐いた。

「……勝手に決めるな」

そう言った声は、
思ったよりも弱かった。

双子は、また顔を見合わせて、
同時に笑った。
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