第3章 怖いものなし
「駄目だ駄目だ駄目だあァァァ!嫌だ怖い怖い怖い怖いぃいぃい!!!!」
絶叫して小枯が鬼鮫に飛びついた。
「駄目駄目駄目駄目えぇぇ!!!!お化けない!お化けいない!大丈夫!いないから大丈夫!!!」
首に腕を回し、両足を腰に回してぎっちり鬼鮫に抱き着いてーと、いうより全身全霊でしがみついて、小枯は顔を伏せたまま呪文のように叫び続ける。
「怖くない怖くない怖くない!」
鬼鮫は爆笑しそうになるのを死ぬ気で抑えてしがみつく小枯を抱え上げた。
「小枯」
「はい!怖くありません!」
「落ち着きなさい。小枯」
「全然大丈夫です!」
「そう。大丈夫です。落ち着きなさい」
「怖くない!」
「怖くありませんよ。何しろ私が霊的なものが怖くありませんからね」
「鬼鮫はお化けが怖くない!」
小枯の復唱に鬼鮫はまた爆笑を死ぬ気で堪えた。
「怖くない私があなたの怖いものを引受けます。安心しなさい。あなたが怖いものは私が3枚に下ろしてあげますよ」
「…化けは鬼鮫が3枚に下ろす?どうやってだ?」
「どうやるも何も。下ろすだけの話です。3枚でも4枚でも叩きでも何でも、あなたのご所望通り捌いてあげますよ」
「食べれるものかね?」
「食べたければ食べてみたらいいでしょう。味の程は保証出来ませんがね?」
「…生魚はあんまり好きじゃないんだよな…」
「焼くか煮るかしますか」
「火を通した魚は旨い」
山で淡水魚ばかり食べていた小枯には生魚は抵抗があるようだ。
「…今度美味しい生魚をご馳走しますよ」
鬼鮫の提案に、小枯が情けない顔をした。
「生魚かぁ…」
しがみついていた手足を放し、自分で立った小枯は腕を組んでうーんと唸る。
「生魚…」
そのとき、また障子がコトとなって、ガタガタ揺れた。
「…ひ…ッ」
飛び上がった小枯がまた全身で鬼鮫にしがみつく。
「…コアラですか、あなたは…」
笑いを堪えながら敢えて呆れ顔を作り、鬼鮫は小枯を抱えあげた。
「コアラでよし!オーストラリアに化けは出ない!」
小枯が鬼鮫の肩にびったり顔を押し付け、くぐもった声で叫ぶ。
「何を根拠に…」
更に笑いを堪えて鬼鮫は小枯の背をぼんと叩いた。
「まあ兎に角、そんなに怯える必要はありません。私に任せてあなたは先に休んでいなさい」