第7章 咎
「俺の名前もお前に教える。小枯、名前を教えてくれ」
口早に言いながら、霜刃は爪が食い込んで血が出そうな程拳を強く握りしめて震えた。
お前の名前をくれ。俺の名前をやるから。
頼む。小枯。
小枯が目を閉じたまま、小さく口を開いた。
慌てて寄せた耳に幽かな声が吹き込まれる。
「…みの…り…」
かっと頭に血が昇って、霜刃は自分も倒れ込むのではないかと思った。
名乗った!
小枯が俺に!
「みのり…みのりだな?」
頷くのを見届けて、霜刃は己の爪で赤く傷ついた手で小枯の手を握った。
「俺は…俺の名前は白皓。白皓だ」
握った手を振ってやると、小枯は頷いて、後は口を開けたまま黙り込んだ。
霜刃はまた小枯を横たえ、羽織を掛け直すと翼殿を飛び出した。
みのり…。みのり!
小枯が、手に入った。
もうずっと俺のものだ。
そして…
そして俺も小枯のもの…!
小さな胸がはち切れそうにばくばく鳴っている。
表で蝉が鳴いている。
弐の社を囲む杉が、松が、風に吹かれて葉擦れを鳴らす。
言い知れない満足感と、拭いきれない罪悪感を抱えて、霜刃は生まれて初めて拝殿を駆けた。
例え忘れていようと、あるものはある。
失われることはない。
霜刃との名乗りあいは、幼く削れた小枯の記憶には残らず、ただ霜刃だけの常しえになった。
十の霜刃の駆ける足音が今も耳に蘇ることがある。言い知れない満足感と、拭いきれない罪悪感もそのままに。
今は愛しい小枯の黒髪を、霜刃の贈った紅い括り紐が鮮やかに、細やかに彩るだけ。
満足感と罪悪感と共に、霜刃は胸の内に小枯を温めて生きる。
紅いまじないが小枯を護ることを祈りながら。
弥栄