第6章 祭
浴室から耳聡い小枯の声が返ってきた。
鬼鮫は笑いを堪えて咳払いした。
「嫌ですよ。下らない」
「いいじゃないか。折角の祭なんだ。お前が行くなら私ももう一度行ってもいい。うん。お前も酒を浴びるなら、今回の件は不問に処す」
「…何が不問に処すですか。処さなくて結構ですよ」
「普通に処されたいのか?なら処しても構わないが」
言いながら、小枯が髪を拭き拭き、戻ってきた。浴衣をぞろりと熟れた風に着付け、帯を男結びにした様が妙に艶めかしい。
浅黒い小枯の肌に紅い地へ鬼灯を白上げした浴衣がまたよく映えて、綺麗は綺麗だが…線の細い傾奇者のようにも見えて鬼鮫はまた笑いそうになった。
「…何だ?変な顔をして。おかしいか?この浴衣?」
「まさか。私が見立てたものがおかしい訳ありません」
「成る程。ならおかしいのは着ている私か。確かにちょっと私には分不相応に華やか過ぎではある…」
何故か申し訳なさそうに浴衣の襟を引っ張った小枯に鬼鮫は堪らず口元を弛めた。
「何で帯を腰に巻いて男結びを?」
「?動き易いから」
「女性用の帯も誂えた筈ですが?」
「うーん。申し訳ないが、ありゃ駄目だ。男帯の方が慣れてるし、動き易い」
「…祭でどれだけ動き回る気でいるんです?」
「いや、動かなきゃ溺れるぞ?酒の滝の餌食だ」
「つまりまた行く気でそれを着てきたと」
「鬼鮫と一緒にな。行くつもりで着てきた」
言いながら無造作に帯を解いた小枯に鬼鮫は驚いて、椅子から立ち上がった。
「何で脱ぐんです」
「いや。考えてみれば腹巻きと脚衣だけの方が動き易い」
ばっと浴衣の前をはだけた小枯は、下にしっかり腹巻きと脚衣を身に着けていた。
「…あなたこの暑いのに何て格好です。のぼせますよ?」
「まさか浴衣の下に下着だけなんて格好出来る訳ないだろ。はしたない」
鬼鮫は小枯の肩に両手を置き、脱力して俯いた。
「…肌襦袢を支度した筈ですが?」
「だからあれは下着だろう」
「…浴衣はそういうものでしょう…」
「動き辛い」
「浴衣はやたらめったら動く為に着るものじゃありません」
「だからこっちのが早いと思って。さっきは筒袖も邪魔だったからな」
腹掛けを引っ張って臍を出した小枯の手首を掴み、鬼鮫は更に脱力した。
「…わかりました。一緒に祭に行きましょう」