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常磐

第6章 祭



「お。行く気になったか!よし。先程の無礼は不問に処す!」

「だから不問になぞ処さなくて結構ですと言っている」

「そんなに引っぱたかれたいのか?」

「…引っぱたく気でいたんですか」

「うん。だってあれじゃ騙し討ちみたようなもんだろ?引っぱたくよ、そりゃ」

「面白い小枯ですねぇ…」

「…何だ、その顔。…何だか引っばたいてすませちゃいけないような気がしてきたな…」

「そうしたいならあなたの好きなようにしても構いませんがね。祭りが終わってしまいますよ。いいんですか?」

「ああ。日が暮れてきたな。よし。行こう」

腹掛けに脚衣で行きかけた小枯の腕を引いて、鬼鮫は首を振った。

「そんなに肌を出したあなたを表に出したりしませんよ、私は」

「そんなこと気にするのはお前だけだ」

「それはあなたが決めつけることじゃない」

「お前が決めつけることでもないだろう?」

互いに三十の歳を越えてこのやり取り。

脱力。

「肌襦袢と浴衣を着なさい。でなけりゃ私は行きません」

「鬼鮫よ。この美しい浴衣は明日能や神楽を観に行くとき纏わせて貰おう。それなら私は肌襦袢を着て女帯をしかと結って出掛けると約束する」

真顔で宣言した小枯に虚を突かれた鬼鮫の手が弛む。小枯はするりと弛んだ鬼鮫の手から逃れて、腰に手を当てて笑った。

「今日は明日とは違う楽しみ方をしよう!酒を浴びて、戻って湯を浴びたら酒を呑みながら夕飯を食べて、いっぱい話して寝よう!祭は5日もあるんだろ?凄く楽しみだ!」

鬼鮫は何か言いかけて口を閉じ、傍らの椅子の背に掛けてあった小枯の羽織を手にとった。

その口元に笑みが浮かんでいる。

「せめてこれを羽織りなさい。そんなあられもない格好で人前に出ちゃ…小枯!」

鬼鮫を置き去りに部屋を出た小枯を追って、鬼鮫が足を踏み出した。

部屋の扉が閉まる。

開け放ったままの窓から夕風が吹き込んで、卓に置き掛けられた紅い浴衣の、白い鬼灯をゆらゆらと揺らした。










弥栄










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