第5章 春の刹那
大体の連中はこのまま他の仕事をしながら、凍みや霜の手助けをして浅寒連に居続ける。
狩りの花形とも言える凍みや霜になれるのはたった6人だけだからだ。
が、この冬の末、つい先頃、霜の勢子役の壱の鎌が鹿を追う内雪解けの下生えに足を取られ、崖から落ちて身罷った。
珍しいことではない。
霜の壱の鎌がこれで八代目を失くし、凍みの壱の鎌は今九代目、単独で獲物を追い込み、誘導する経巡の里の勢子は命を落とし易い。
問題は、その空いた霜鎌の壱の鎌に、小枯がおさまろうとしていることだ。
「霜の話、受けるのか」
水辺りを吹き過ぎる湿った風にすんと鼻を鳴らして淡緑の胡桃を見上げる小枯に問えば、男勝りの幼馴染は腰に手を当てて背筋を伸ばした。
「受けるとも。断る理由もないものな」
馬鹿な。
断る理由なら山とある。
小枯はまだ14だ。
本来霜や凍みの上組になるには16からの歳が必要だ。
それが今回は特例として小枯を霜の壱の鎌に据える話が出た。
小枯が時雨を使えるからだ。
小枯の家は時雨持ちで、家族はほぼ皆時雨を使う。小枯はその中で群を抜いて強い時雨を出し、扱う。
そしてその度削れ、程度によれば文字通り死にかかる。
そんな小枯が上組の狩りに加わればどうなるか、確かめるまでもない。
「止めておけ」
「何で」
死ぬかも知れないから。
そんなことになったら、俺はどうしたらいいんだ。
まさか思うまま伝える訳にもいかず、霜刃は口籠った。
「心配するな」
口籠った霜刃に、小枯が笑いかけた。
春の長閑な日差しのような、優しい笑みだ。何で小枯はこんな笑い方をするのだろうか。
お互いまだ14だというのに、小枯の優しさが諦念に見える。
「私は強い!ちゃんと長生きする!大丈夫だ!」
そう言って背中をぱんと叩いた小枯に逆に慰められたようで、霜刃は閉口した。
違うんだ。
お前を守りたいんだ、俺は。
「霜刃、足場が滑るから気を付けろよ。沢に落ちて風邪でも引いたら春の三神祭に障…ぅわッ」
神官の端くれである霜刃の、この先の勤めを気にして気遣わしげに言った小枯が、それこそ踏み出した足を滑らせて沢側に傾いた。