白と黒のハーモニー 第二局 【ヒカルの碁・緒方精次】
第31章 ○ 海辺の街でのデート ●
軽い昼食を済ませてショッピングモールをぶらつく。雑貨屋で、花束を飾るためにシンプルな花瓶を買った。気がつくと、西の空が茜色に染まり始めている。星歌が立ち止まって、モールの外にそびえる観覧車を見上げた。
「…乗りたいな」
緒方は、星歌の瞳に映る期待を見て頷く。
「行こう」
2人だけのゴンドラに乗ると、ゆっくりと地上が遠ざかっていく。宝石箱をひっくり返したような夜景が眼下に広がった。
星歌は窓にひたいを寄せている。
「きれい…」
緒方は、星歌の隣へとさりげなく移動する。夜景よりも、ずっときれいだ…と星歌の横顔を見つめる。
ゴンドラが1番上まで昇りきったとき、緒方は星歌の肩を抱き、そっと唇を重ねた。短く、軽く触れるだけのキス。だが、確かな愛情は込めたつもりだった。
唇を離すと、星歌は真っ赤な顔で緒方を見つめる。
「…精次さん…」
「星歌、卒業おめでとう」
緒方は甘く囁いた。
外は夜。卒業祝いということで外食に行こうと思ったが、昼からずっと外に出ているから家がいいと、星歌が言った。
帰りの車、星歌は助手席におとなしく座っている。
「疲れたか?」
「…ううん、大丈夫」
星歌は笑顔で答えるが、その後の会話は続かない。しばらく2人は無言のまま。やがて、星歌が窓の外を眺めながら、そっと呟いた。
「卒業したから…」
沈黙が続き、その後の言葉が紡がれる様子はない。
「…卒業したから…?」
緒方は続きを促すように聞き返す。
窓の外を見たまま星歌は、小さな声で言う。
「…卒業したから…お泊まり…したいな」
車内の空気が一瞬で熱を帯びた。緒方はハンドルを握る手に力を込める。…星歌が、オレの家に、泊まる…。それって…そういうことでいいのか…?いや、でも…。緒方の頭の中で、思考がグルグルと巡る。
「…ダメ…かな…」
ポツリと言う星歌に、慌てて返事をする。
「いや、ダメではない。急だったから、少し驚いた」
「…うん…」
星歌はずっと、窓の外に目をやっている。街灯が流れる道を、車は静かに緒方家へと向かっている。夜空では、三日月が静かに微笑んでいた。