白と黒のハーモニー 第二局 【ヒカルの碁・緒方精次】
第30章 ● 卒業式には花束を ○
海王高校の正門から少し離れたところで、緒方の車が静かに停まる。助手席には12本の薔薇の花束が横たわる。緒方はエンジンを切り、ハンドルを握ったまま息を吐いた。
ここまで来てしまったが…一体どうすれば…。式はもうすぐ終わるだろう。やがて、生徒たちが一斉に外へ出てきて、校庭が歓声で埋まるはずだ。そのときに、自分は花束を抱えて星歌を探せばいいのか…?
窓を少し開け、耳を澄ませて待っていると、春風とともにざわめきが聞こえ始める。…さて、オレも行くか。ドアを開けて立ち上がる。ジャケットの前端を軽く引っ張り、整える。花束を手に、歩きだす。
門の外から、生徒や保護者の姿がチラホラと見える。カメラを構える父親、涙ぐむ母親、友だち同士で何やら話す女生徒たち。その中に星歌の姿はない。
星歌は1人で日本に戻ってきて、卒業式を両親の顔も見られずに迎えた。きっと寂しかっただろう。胸の奥が締めつけられるようだ。
緒方は花束を抱え、正門脇の銀杏の樹の陰に身を寄せる。やがて、体育館の扉が大きく開き、制服の群れが波のように外へあふれた。笑い声と泣き声が入り混じる中、星歌の姿を探す。…見つけた。クラスメート…あれは、ゆみちゃん、と並んで歩き、穏やかに微笑んでいる。制服の胸元には、卒業式のためのコサージュが飾られている。
緒方は花束を抱えたまま、ゆっくりと歩み寄る。星歌はまだ気づいていない。ゆみが星歌の肩を叩き、緒方のほうを指差す。
「ハッピー来てるよ!」
確かにそう言った。…オレ、ハッピーって呼ばれてるのか…。まァ、オレと星歌のことを内緒にしてくれていたから、その呼び方も大目に見てやろう。とはいっても、今日、全部バレてしまうが。ゆみが示すほうを見た星歌と緒方の視線がぶつかる。星歌は驚いた表情で固まる。周りの生徒たちも、緒方に気づき始める。
「ハッピー緒方!本物?」
「薔薇の花束!キレイ!」
「なんでここに?誰かの彼氏?」
少しずつ星歌との距離が縮まり、やがて緒方は歩みを止めた。