• テキストサイズ

白と黒のハーモニー 第二局 【ヒカルの碁・緒方精次】

第30章 ● 卒業式には花束を ○


 星歌の卒業式の日。緒方は対局室で神経を研ぎ澄ませている。対局相手は、御器曽七段。
 御器曽は席に着くなり、苦々しい顔で緒方を見る。先日のカフェの一件が、まだ尾を引いているようだった。緒方はさらに冷たく鋭い目で睨み返す。その気迫に、御器曽だけでなく記録係の和谷二段もたじろいだ。
 定刻通りに対局が始まる。黒番の御器曽がゆっくりと初手を打つと、緒方がすぐさま2手目を打つ。御器曽は驚くが、平静を装いながら右下に3手目を打つ。またも緒方は、瞬時に4手目を打った。その後も同様の打ち方が繰り返され、信じられないスピードで緒方の碁は進んでいく。

 モニターで観戦していた棋士たちも異変に気づく。
「何だ?この打ち方…」
「緒方先生、考える時間ゼロだろ…」
「いや、考える時間はある。御器曽さんが考えている時間に、十段も考えるだけ考えてる」

 芦原が白川に話しかける。
「緒方さん、どうしたんでしょうね?」
「今日、星歌ちゃんの卒業式だからね。花束持って、会場に直行するつもりだろうよ」
「なるほど、だからハッピーセットも身に着けてるんですね」
「それにしても、今日の相手が御器曽さんとは、なんともドラマチックな話だな」
「持ち時間3時間…。いくら緒方さんでも、間に合いますかね?」
「そこは微妙なところかな〜」

 白川と芦原の心配をよそに、対局1時間を過ぎたところで、形勢は緒方が圧倒的に有利だ。超人的な早碁ながら正確な読みが冴える。御器曽はひたいに汗をかき、手は震えている。その後30分も経たず、緒方が中押し勝ちを決めた。
「…あ、ありません…」
「ありがとうございました」
 素早く碁石を碁笥に収め、緒方は立ち上がる。御器曽は恐る恐る言う。
「…検討は…?」
 緒方は振り返ることもせず、ひどく冷たい声で答えた。
「この検討は、オレにとって半目の価値もない」

 対局室の外では、白川と芦原が緒方を待っていた。
「ナイス!緒方!まだ間に合うだろ?急げ!」
「星歌ちゃん、絶対喜びますよ!」
 緒方は黙って手を挙げ、駐車場へと向かった。
/ 135ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp