白と黒のハーモニー 第二局 【ヒカルの碁・緒方精次】
第27章 ○ 2人の和解 ●
遠くで17時の鐘が鳴る。公園には緒方の他に誰もいない。緒方はベンチに座り、両手を膝の上で固く握りしめる。星歌へのメッセージは既読になっていたが、返信はない。
日は傾き、公園はオレンジ色に染まっている。目の前には、星歌の住むマンションが見える。インターホンを押そうか…と立ち上がるが、座り直す。そんなことをしたら、怖がらせるだけだ。今日はもう帰るべきか…そう思った瞬間、公園の入口に小さな影が見えた。
星歌はコートを羽織ってマフラーを巻き、俯き加減でゆっくりと近づいてくる。
緒方は立ち上がる。
「…星歌、来てくれて…ありがとう」
声が震える。
星歌は3メートルほど手前で立ち止まり、顔を上げた。
目元が赤いような気がするが、泣いたあとなのか、夕日のせいかは分からない。緒方は数歩だけ近づいて止まった。
「…本当に、ごめん」
深く頭を下げ、そのまま言葉を続ける。
「昨日は、オレが最低だった。酔っていたとか負けたとか、言い訳にならない。星歌を傷つけて怖がらせた。あんなこと、もう二度としない」
声が掠れる。鼻の奥がツンと痛くなり、涙がこぼれそうになる。
「…うん、昨日は…怖かった…。でも…私も、精次さんの気持ちに気づけなくて…ごめん」
星歌の涙声に緒方は顔を上げ、慌てて首を振る。
「違う。星歌が謝る必要はない。全部、オレが悪い」
星歌の目には涙が溜まっているが、それでも少しだけ笑う。
「…うん、精次さんのこと、信じてる…」
「…ありがとう…」
緒方は拳を握りしめている。できることなら、星歌を抱きしめたかった。でも、今の自分にそんな資格はないと思っていた。星歌に許してもらえた、信じていると言われた、それだけで十分だ。
「…今日は、帰るね」
星歌はゆっくりと歩き出す。
引き止めたい衝動を抑えて緒方は、星歌の背中に声をかけた。
「また…会いたい」
星歌は振り返らなかったが、小さく頷いた。
公園の街灯が、2人を見守るように光を放っていた。