第6章 新しい日常
「爆豪、ちょっといいか」
朝のホームルームが終わると爆豪は相澤に呼ばれ、舌打ちを堪えながらも足を進めた。
人気のいないところまで行くと報告書をパラパラと捲りながら、相澤はいつもの気怠げな声で、けれどどこか気遣うようなトーンで切り出した。
「……ジーニストから連絡があった。実習中の動き、それから……例の彼女を自宅で保護している件についてもな」
「……あァ。それが何か問題かよ。ジジイもババアも納得してんだ」
「いや、責めるつもりはない。……ただ、少し気にかけておこうと思ってな。お前、昨日はちゃんと寝たのか?」
相澤の言葉に、爆豪の身体が僅かに強張る。
昨夜、深夜まで彼女の「治療」と称して熱を注ぎ込み、その後自分も虚無感の中で果てたことを見透かされたような気がした。
「……寝たわ。文句ねぇだろ」
「ならいい。……爆豪、お前が彼女を救い出したのは事実だ。だが、心身ともに大きな傷を負った人間を支えるのは、並大抵のことじゃないぞ。ヒーローとしても、一人の男としてもな」
相澤は視線を報告書から爆豪の瞳へと移した。
そこには厳しい監視の目ではなく、教え子を案じるような色が混じっている。
「彼女も今日から別の学校に復帰したと聞いた。……急ぎすぎるなよ。お前が焦れば、それが彼女にプレッシャーとして伝わる。お前は少し、背負い込みすぎる癖があるからな」
「……焦ってねぇよ。あいつが……あいつ自身でいられるように、俺が側にいるだけだ。……あいつに刻まれたクソみたいな記憶を、俺が全部引き受けてやるって決めたんだよ」
爆豪の不器用な、けれど真っ直ぐな言葉。
相澤はそれを聞くと、わずかに口角を上げ、短く息を吐いた。
「……そうか。なら、俺から言えるのは一つだけだ。……お前が壊れるなよ。お前が倒れたら、今度こそ彼女の居場所がなくなる」
「……倒れるかよ。誰に言ってんだ」
「いい返事だ。……放課後、彼女を迎えに行くんだろう? 遅れるなよ。ヒーロー科の生徒が、女の子を不安にさせるのは感心しない」
「……チッ。言われなくても、そうするわ!」
爆豪は乱暴に踵を返したが、その背中には相澤の言葉が静かに染み込んでいた。
教室を出て廊下を歩きながら、爆豪はポケットの中でスマホを握りしめる。
(……待ってろ。終わったらすぐ、迎えに行ってやるからな)
