第5章 『極上ミルク』の正体
ジーニストの厚手のコートに包まれた瞬間、安心したようにの意識はぷつりと途絶えた。
気を失ったを、その細い腰に腕を回し、抱き上げようとしたその時だった。
「……触るな」
地を這うような低い声。
爆豪から放たれたのは、先ほどヴィランたちに向けていたものとは異質な、だがそれ以上に鋭利な「拒絶」の圧だった。
「爆豪、君は独断先行をした。ヒーローとしての規律を著しく乱したんだ。これ以上感情に任せるのは――」
「触んじゃねぇって言ってんだよ……ッ!!」
爆豪が顔を上げた。
その瞳は血走っており、鋭い牙を剥き出しにした獣そのものの形相だった。
彼はジーニストの手を弾き飛ばす。
「こいつに……に、これ以上、誰一人として指一本触れさせねぇ……」
今の爆豪にとって、たとえ信頼すべき師匠であろうと、男という種族である以上、彼女に触れさせることは耐え難い苦痛だった。
男たちの欲望を注ぎ込まれ、ズタズタにされ、白濁にまみれた彼女の姿。
その惨状を見た男が、自分以外に存在することすら許せなかった。
ジーニストがかけたコートの上から、爆豪は彼女を壊れ物を守るように強く、だが痛みを与えない絶妙な力加減で抱き締める。
「……俺が運ぶ。……どこへでも、俺が連れて行く」
「……爆豪」
「あいつらの、汚ねぇもんが……まだ、ナカに詰まってんだ……。あいつが目覚めた時に、また『男』が目の前にいたら……こいつ、壊れちまうだろうが……ッ!!」
爆豪の絞り出した声には、怒りよりも深い、泣き出しそうなほどの悲痛な独占欲が混じっていた。
ジーニストは差し出した手をゆっくりと引き、短く、重い溜息を吐いた。
今の爆豪に何を言っても無駄であり、また、彼ほど彼女の傷に寄り添い、守り抜こうとする者もいないことを悟ったからだ。
「……いいだろう。ただし、病院の入口までだ。爆豪、君は彼女のヒーローになりたいのだろう。ならば、これ以上の独走は彼女のためにならない。……行こう」
「…………分かってんだよ」
爆豪は腕の中の小さな、あまりにも軽くなってしまった幼馴染を抱き直し、白濁と血の入り混じった地下室を、一歩ずつ踏みしめるように後にした。