第11章 毒ある慈愛の飼育
翌日、帰りのHRを終え、重い足取りで職員室へ向かおうとする相澤の背後から、低く鋭い声が投げかけられた。
「……おい、先生。ちょっと面貸せ」
振り返ると、そこには不機嫌を絵に描いたような顔の爆豪が立っていた。
その瞳には、隠しきれない苛立ちと、獲物を追い詰めるような鋭利な光が宿っている。
「爆豪か。……何の用だ」
「ここで話す内容じゃねぇよ。……についてだ」
相澤は一瞬、心臓が跳ね上がるのを感じた。
だが、表面的には平然を装い、彼を指導室へと招き入れた。
重い扉が閉まり、密室となった室内で相澤は椅子に腰を下ろす。
「……で、何の話だ」
「とぼけてんじゃねぇぞ、クソが。……見りゃわかんだよ。隠せてると思ってんのか?」
爆豪は机を乱暴に叩き、相澤を睨みつけた。
「……何のことだ」
「『ミルク』の香りが、昨日までとは比べ物にならねぇほど濃くなってんだよ。……先生。テメェの身体からも、アイツの匂いがプンプンしてんだわ」
爆豪の言葉に、相澤の喉が微かに強張る。
「……昨日の放課後アイツに何をした。……教師が生徒を抱くってのは、ヒーロー界じゃどんなツラして許されるんだ? ああ?」
「……。俺は、管理を……」
「管理だぁ!? 笑わせんじゃねぇ! 結局、テメェもあの女に呑まれただけだろ。あいつのナカの熱に当てられて、理性をかなぐり捨てたんだろ!」
爆豪は相澤の胸ぐらを掴まんばかりに身を乗り出した。
「いいか、教師面してあいつを囲い込んでんじゃねぇ。……あいつを、俺の元へ返せ」
「返せ、だと? お前たちが彼女をボロボロにするのを黙って見ていろと言うのか」
「……テメェが抱くよりはマシだ。あいつは俺たちが、……俺が、一番わかってんだよ。テメェみたいな枯れた大人が扱いきれる女じゃねぇ。……さっさと手を引け。これ以上、アイツを汚すんじゃねぇよ」
かつて管理を任せていた生徒に、自分自身の醜態を突きつけられ、相澤は深いため息をつき、ただ黙って受け止めるしかなかった。
反論の言葉など、一つも持ち合わせていない。
管理という大義名分を掲げながら、実際には彼女の「ミルク」に脳を焼かれ、親友まで巻き込んで淫らな海に溺れたのだ。
爆豪の言う通り、教師としてこれ以上ないほど無様に「汚れて」いた。