第11章 毒ある慈愛の飼育
「このままだと、俺たちだけじゃ足りなくなる日が来る。そうなれば、学校中……いや、社会そのものが彼女に飲み込まれかねない。……打つ手がないのが、今の最大の悩みだ」
二人の間に、重苦しい沈黙が流れる。
救いたいという教師としての理性と、もっと犯されたいと願う彼女の肉体。
その矛盾の答えは、まだどこにも見当たらなかった。
「今まで、あの子はどうしてたんだ。まさか、ずっと一人で耐えてたわけじゃないだろ?」
マイクが絞り出すような声で問うた。
相澤は視線を落とし、机の上に置かれたカップの縁を指でなぞった。
「……一部の事情を知る生徒たちに、任せていた。……奴らは、彼女の変調にいち早く気づき、溢れ出す前にその『毒』を自らの身体で受け止めていたよ」
「……何だって?」
マイクの顔に驚愕が走る。
生徒同士でそんなことが行われていた事実に、プロとしての倫理観が揺らいだ。
しかし、相澤は淡々と続けた。
「だが、限界だった。彼女の欲求は日に日に肥大化し、生徒たちの手には負えなくなっていた。あいつら自身、彼女の放つ香りに呑まれ、学業どころか日常生活にすら支障が出始めていたんだ」
相澤は自嘲気味に口の端を歪める。
「見兼ねた俺が、彼らから彼女を引き離し、自分の手元で徹底的に管理しようとした。……だが、結果はこの有様だ」
相澤は自身の掌を見つめた。
生徒を救うために割り込んだはずの自分が、誰よりも深くその深淵に嵌まり込んでいる。
「管理する側だったはずの俺が、真っ先に毒にやられた。……彼女を隔離したところで、俺自身があの肉体の虜になり、こうして親友まで引き摺り込んでいる。皮肉なものだな。管理どころか、俺たちが一番の『中毒者』だ」
「……お前、一人でそれを背負い込もうとして……」
マイクは言葉を失った。
引き離したはずの「欲」は、今や教師二人の理性を食い破り、より強固な檻……あるいは、底なしの沼となって彼女と彼らを繋ぎ止めてしまっている。
「……この件は、他言無用だ。山田、いいな」
相澤は力なくそう言い捨て、一旦解散することにした。
彼女の毒を浴び続け、その熱に冒された自分たちが、今後も理性を保ち続けられるのか。その自信は、昨夜の狂乱と共に霧散していた。