第10章 欲しがる者と与えるモノ
放課後の演習場。
夕闇が迫る中、心操の動きは精彩を欠いていた。
「……そこまでだ」
相澤の低く鋭い声が響き、心操は動きを止めた。
荒い息をつく弟子の背中に、相澤は冷徹な眼差しを向ける。
「心操、最近のパフォーマンスはどうした。ヒーロー科編入を目指していた頃のハングリー精神はどこへ行った? 今のままでは、追いつくどころか離される一方だぞ」
「……わかってます。すみません」
心操は捕縛布を力なく手繰り寄せ、視線を地面に落とした。
だが、その瞳に宿っているのは疲労と、どろりとした執着と喪失感だ。
「わかっているなら、修正しろ。……私生活で何かあったか?」
「……別に。何もないですよ。ただ……」
心操は言葉を切り、喉の奥で苦い塊を飲み込んだ。
脳裏に焼き付いているのは、あの昼休みにる爆豪に連れ去られる彼女の、欲情しきった虚ろな瞳だ。
「ただ、……あいつが。爆豪が、羨ましいだけです。あいつ、最近明らかに動きが良くなってますよね」
「爆豪か。ああ、身体能力も判断力も一段階ギアが上がった印象だ。それがどうした」
相澤の問いに、心操は自嘲気味に口角を上げた。
抑えきれない嫉妬が、つい言葉となって溢れ出す。
「……あいつ、のミルクを飲んでるからですよ。あれさえあれば、どんなに動いても、一晩中抱き潰しても、あいつは……」
「……何だと?」
相澤の声のトーンが一瞬で変わった。
探るような、鋭い観察者の目に。
「……お前、今なんて言った。の『ミルク』だと?」
「……え?」
心操は自分の失言に気づき、顔を上げた。
相澤の表情には、明らかな驚愕が浮かんでいる。
「……なぜお前がその話を知っている。あれは、彼女の個性の極めて特殊な側面だ。本人と、健康管理を任されているリカバリーガール含めた極一部の人間しか知らないはずの機密事項だぞ」
「……先生まで知ってるんですか」
「ああ。彼女のキャパシティに関わる問題だからな。だが、クラスメイトのお前がなぜその名を出した。……まさか、お前も飲んだのか?」