第10章 欲しがる者と与えるモノ
「あ……車が来たぞ! ちゃんだ!」
寮の玄関前、誰かが上げた声を合図に待機していたA組の面々が一斉に駆け出した。
「ちゃん! 怖かったよね、大丈夫!?」
「怪我はない!? どっか痛むところは……!」
お茶子や芦戸が泣きそうな顔で詰め寄る。
「ちゃん……っ、本当によかっ……」
緑谷が言葉をかけようとして、ふと足を止める。
車から降りてきたは、想像していた「憔悴しきった被害者」の姿ではなかった。
数日前よりも頬は赤みを帯び、肌は瑞々しい艶を放っている。
「みんな……心配かけてごめんね。私は、もう大丈夫だから」
「……あァ? てめぇ、その顔……」
爆豪が喉の奥で唸る。
彼の本能は彼女の纏う「男の匂い」を敏感に嗅ぎ取っていた。
付き添っていたミリオが、彼女の肩を優しく叩いてクラスメイトたちに笑いかける。
「ははは! みんな、そんなに心配しなくても大丈夫だよ。彼女は強いからね!」
「……ああ。俺たちは、一旦これで。……さん、また今度……『続き』の話をしに来るよ」
天喰が彼女の耳元で、他人に聞こえないほど低い声で囁く。
その視線は、彼女の服の下に隠された自分たちの「痕」を慈しむようだった。
「……っ、はい。ありがとうございました。お二人とも」
二人の先輩が去っていくのを見送り、緑谷たちは釈然としない思いで立ち尽くした。
「みんな、いつまでも外で囲んでるんじゃない! くんは病み上がりなんだぞ!」
クラス委員長の飯田が、腕を大きく回して割って入った。
「今は何より休息が優先だ! 詳しい話は後日、まずは自分の部屋でゆっくり休むんだ。いいな、諸君!」
「そう……だね。ちゃん、ゆっくり休んで」
緑谷が沈痛な面持ちで道を譲る。
轟も何か言いたげな瞳を向けながらも、彼女を気遣って口を閉ざした。
「……クソが」
爆豪の低い声が響く。
クラスメイトたちの「よかった、よかった」という安堵の声に包まれながら、は逃げるように自室へと戻っていった。
その足取りが、どこか落ち着かない様子で内腿を擦り合わせていることに気づいたのは、爆豪だけだったーー。