第10章 欲しがる者と与えるモノ
翌日、予定されていたすべての検査を終えたは、本人の強い希望もあり、雄英高校の生徒寮『ハイライツ』へと帰還することになった。
病院の玄関先で迎えの車を前に、一人の男が情けなく鼻をすすっていた。
「ううっ……ちゃん、本当に行ってしまうんか? もう一日くらい、ここでゆっくりしててもええんやで……?」
「ファットさん、……私、もう大丈夫ですから」
苦笑いする。
その肌は、数日間の「密な療養」のおかげか、以前よりも内側から発光するような艶を帯びている。
「ファット、往生際が悪いですよ」
ミリオが快活に笑いながら、の荷物を車に積み込む。
その後ろで、天喰がどこか物憂げだけれど、独占欲を孕んだ瞳で彼女を見つめていた。
「……俺たちは、いつでも会いに行ける。……君が望むなら、あの『続き』だって……」
「っ……、天喰さん、声が大きいです……」
が頬を赤らめて俯く。
ファットガムだけが「俺はそう簡単に校内に入られへんのや!」と一人で温度差の激しい嘆きを漏らしていた。
「ううっ……嫌や、行かんといてや、ちゃん……っ! せめてあともう一晩、俺の腕の中でゆっくり……っ!」
走り出した車の後部座席から振り返ると、そこには通行人の視線も構わず、大粒の涙を流すファットの姿があった。
「ファットさん、子供みたい……」
苦笑するを横目に、ミリオと隣の天喰は、バックミラーに映る師匠の嘆きを冷ややかに受け流す。
「……気にしなくていいよ。あの人は、君の『味』を知りすぎただけだから」
天喰が独占欲の滲む声で呟く。
遠ざかるファットガムの慟哭は、彼が彼女にどれほど深く溺死させられたかを物語っていた。
車が寮の前に到着すると、そこには彼女の帰りを待ちわびていたクラスメイトたちが集まっていた。
公式には「敵の別荘に監禁されていたが、戦闘に巻き込まれる前に救出された」と説明されている。
だが、あの夜緑谷から「事情」を聞かされた三人の少年たちだけは、張り詰めた面持ちで立っていた。