第10章 欲しがる者と与えるモノ
沈黙が流れる。は頬を赤く染め、震える声で言葉を絞り出した。
「……わたし、…あんなに酷いことをされて、あんなに怖かったのに……。……身体が、欲しがっちゃうのが……本当に、恥ずかしくて、情けなくて……っ」
「君のせいちゃうで、ちゃん」
ファットが優しく手を添えた。
「……でも、自分じゃどうしようも、ないんです……だから……先生、……お願いです。また、あんな風に、自分が自分じゃなくなるくらい熱くなっちゃった時は、……助けて、欲しいです。……独りきりで、あいつらのこと思い出して震えるのは……もう、嫌だから……っ」
涙ながらの切実な懇願。
それは、欲望への降伏ではなく、彼女が彼女自身であり続けるための、必死の叫びだった。
相澤は深く頷き、隣のファットを鋭く一瞥した。
「……聞いたな、ファットガム。お前が昨夜犯した過ちは消えんが、彼女が求めているのは、あのアジトで受けた屈辱を上書きする『体温』だ」
「……わかっとる。……一生かけて、償わせてもらうわ。……ヒーローとして、一人の男として」
ファットは決意を込めて、の手を握り返した。
「……よし。決まりだ。……これより、お前の『治療(リハビリ)』を、雄英の特別公認とする。……ただし、節度は守れよ。特にお前はな、ファットガム」
「わ、わかっとるって! イレイザー、目つき怖いわ!」
少しだけ、以前のような空気が戻ってきた病室で、は安堵から小さく息を吐いた。
相澤は時計に目をやり、短く息をついた。
「……方針は決まったな。、お前は精密検査と経過観察を兼ねて、あと数日はこのまま入院だ。無理に動こうとするなよ」
「はい、先生。ありがとうございます……」
「ファットガム、後のことは頼む。問題が起きれば即座に連絡しろ」
相澤はそれだけ言い残すと、山積みの事後処理とエリの元へ向かうべく、翻る捕縛布と共に足早に部屋を去っていった。
病室に残されたのは、どこかホッとした表情のファットと、少し緊張の解けたの二人。
「さて、そうは言うてもなぁ……。俺もプロやから、これから署に顔出したり事情聴取があったりで、どうしても傍を離れなあかん時間が出てくるんや」
ファットガムは困ったように眉を下げ、お腹をぽんと叩いた。