第10章 欲しがる者と与えるモノ
「……ファットガム、面を上げろ」
「……っ」
「本来なら即刻、除名と告発を検討する事案だ。だが……今の証言と、お前の今までの功績、そして何より被害者であるはずの彼女がそれを『救済』だと言い張る以上、公にはせん。……今回だけは、俺の胸の内に収めてやる」
「……イレイザー…。……恩に着る」
「礼を言う必要はない。その代わり、彼女のケアは最後まで責任を持て。……いいな」
相澤はそれだけ告げると、踵を返して部屋を出て行った。
相澤は、重い足取りでエリの病室へと向かう廊下を歩いていた。
(……やはり、根が深すぎる)
先ほど目にした病室の光景と、鼻腔に残る甘ったるい匂いを反芻し、相澤は深く溜息をついた。
実は、彼がの異変に気づいたのは今回が初めてではない。
前回の事件で彼女を雄英に迎えた際、彼女の身体に残った「後遺症」を、爆豪や緑谷たちが文字通り身を削って……「熱」を抜くことで鎮めていたことは、担任として薄々察していた。
その時は、彼女の精神的安定と、生徒たちの自主性に任せる形で敢えて深くは追求しなかった。
無理に暴けば、彼女の壊れかけた自尊心をさらに傷つけると考えたからだ。
だが、今回で三度目。
度重なる誘拐と、治崎のような「分解・修復」を繰り返す異常者による執拗な調教。
彼女の肉体は、もはや普通の治療では制御できないほど、ヴィランたちの欲望に忠実な「回路」を刻み込まれてしまっている。
「……プロの大人まで巻き込むほどか」
ファットガムのような誠実な男でさえ、抗えなかったあの空気。
エリの病室に入り、眠る幼い少女の様子を確認しながら、相澤は主治医と今後の治療方針について短く言葉を交わした。
エリの「巻き戻し」も深刻だが、の「植え付けられた肉体の飢え」も、別の意味で深刻な後遺症だ。
一通りの用件を済ませた相澤は、再びの病室へと戻ると、そこには先ほどまでの張り詰めた空気とは打って変わり、どこか陽だまりのような穏やかな時間が流れていた。