第10章 欲しがる者と与えるモノ
「……わかった。病院へは行かない。……だが、一生会えないわけじゃないんだろ」
「うん。……あと数日で、精密検査が終わればこの寮に戻ってくる。相澤先生は言ってたよ。『戻ってきた時が、お前たちの本当の戦いになる』って」
「……上等だ。どんな姿になってようが、あいつはあいつだ。……俺が、全部元通りにしてやる」
爆豪の低い、決意に満ちた言葉が響く。
三人の少年は、彼女を奪い、変えてしまったヴィランへの怒りと、数日後の「再会」への不安を抱えながら、冷たい夜気の中で立ち尽くしていた。
非常階段での会話を終え、それぞれの自室に戻った三人の夜は、あまりにも長く、そして残酷なほどに静かだった。
緑谷は、暗い部屋で自分の掌を見つめていた。
「……君を、元に戻すなんて……僕の傲慢なのかな」
握りしめた拳が震える。
治崎に刻まれた「飢え」を、自分が上書きできるのか。
それでも彼女を抱き締めたいという歪な独占欲が、心の中で激しく渦巻いていた。
爆豪はベッドに寝転び、天井を睨みつけていた。
脳裏にこびりついて離れないのは、緑谷が語った「変わり果てた姿」という言葉だ。
「どいつもこいつも……。あいつに触れた奴ら全員、まとめて爆破してぇ……ッ」
掌からパチパチと不規則な火花が散る。
苛立ちの奥にあるのは、自分が彼女を救えなかったという、焼け付くような無力感と、激しい嫉妬だった。
轟は窓の外を眺めていた。
「……俺たちが知っている姿ではない、か」
どんなに変貌していようと構わない。
そう言い切ったものの、胸の奥では冷たい不安が澱のように溜まっていく。
彼女の、あの柔らかな熱。
それが今は、別の男たちの手によって、自分の知らない色に染め替えられている。
「……待ってるぞ、。お前がどんな地獄を抱えて戻ってきても、俺は……」
窓ガラスに指を触れる。
その指先だけが、彼女を求める熱で微かに疼いていた。