第9章 囚われのお姫様
「……プロに任せろ。これは命令だ」
相澤の言葉は、冷徹なまでに重かった。
爆豪が掴みかかろうとするが、相澤の視線はその熱をねじ伏せる。
「相澤先生! 僕たちにも探させてください!」
緑谷が食い下がるが、相澤は首を振った。
「緑谷。水面下でプロが動く……いいか、お前たちが今すべきことは、不測の事態に備えて寮で待機することだ。それ以外は許さん」
「……ふざけんな」
爆豪の喉から、絞り出すような声が漏れる。
「プロに任せろ? 祈って待て? そんなの、ヒーローの面下げて言えんのかよッ!!」
「爆豪、やめろ」
轟が爆豪の肩を掴む。
轟の瞳もまた、激情で赤く燃えていた。
「先生。……『救助要請』を出したってことは、もう場所の目星はついてるんですか?」
「……今はまだ、わからん」
相澤は短くそう告げると、三人に背を向けた。
サー・ナイトアイを中心に「死穢八斎會」への強制捜査の準備が着々と進んでいる中、自分は自由に動けない。
だが、極秘任務である以上、生徒である彼らに詳細を明かすわけにはいかず、他のプロに頼むしかなかった。
「……クソがッ!!」
扉が閉まり、相澤が去った後の部屋に、爆豪の拳が虚しく壁を打つ音が響く。
「……ごめん。……ごめんね、ちゃん、……」
緑谷は床に溶け残った泥を見つめ、自身の無力さに涙を溢れさせた。
轟は拳を血が滲むほど握りしめ、爆豪は荒い呼吸を繰り返しながら、ただ一点、彼女がいたはずのベッドを睨みつけていた。
自分たちが何も知らずに笑っていた一週間の重みが、三人の心に絶望としてのしかかる。
彼女がどこにいるのかも、何のために攫われたのかも、自分たちが今すぐ助けに行けない理由も。全てが不条理な闇に包まれていた。
「……許さねぇ。……どこのどいつだか知らねぇが、あいつを泣かせてる奴は……俺がこの手で、跡形もなく消し飛ばしてやる……」
爆豪の呟きは、呪いのように暗く、鋭く部屋に響いた。