第9章 囚われのお姫様
「……は、そんなツラで俺を見ねぇ」
爆豪の掌が、彼女の細い喉を掴み上げた。
「かっちゃん、やめろ!!」
「爆豪!!」
二人が止めに入ろうとした瞬間。
爆豪は咆哮と共に、掴んだその体を壁に向かって全力で叩きつけた。
「――吐けッ!!! 本物はどこへやったァ!!!」
ーーズドンッ!!という鈍い衝撃音。
次の瞬間、叩きつけられた「」の姿が、ドロリとした灰色の泥のように崩れ落ちた。
服も、髪も、その肉体さえも、形を失って床に溶けていく。
「……え……?」
緑谷の喉が、引き攣った音を立てた。
「偽物……。ヴィランの『分身』か……!!」
轟が驚愕に目を見開く。
「……一週間だ。一週間、俺たちはこの『泥』と喋ってたのかよ……ッ!!」
爆豪は床に散らばった泥を、今にも爆破しそうな勢いで睨みつけた。机の上には、一週間一度も触れられた形跡のない彼女のスマートフォンが虚しく置かれている。
「相澤先生に連絡だ……ッ!! すぐにだ!!」
爆豪の叫びが、静まり返った寮に響く。
スマホはここにある。
GPSも手がかりもない。
一週間という空白。
愛する女が、自分たちが「泥」と会話している間に、どんな地獄に突き落とされているのか。
爆豪の掌から、これまでにないほど激しく、絶望的な火花が散り始めた。
緊急連絡を受けた相澤が、捕縛布を翻して部屋に踏み込んでくる。
「状況は把握した……。落ち着け、爆豪」
「落ち着いてられるかよ!! が……あいつが、どこの馬の骨ともわからねぇヴィランに攫われたんだぞ!! 今すぐ探しに行く、どけ!!」
爆豪が相澤を押し退けようとしたが、相澤の捕縛布がそれを鋭く制した。
「待てと言っている。……今のお前たちが闇雲に飛び出したところで、手掛かりすらない状態で何ができる。二次被害を生むだけだ」
「相澤先生……! でも、一週間です。一週間も経ってたら、彼女がどんな目に……ッ!」
緑谷が悲痛な声を上げる。
その脳裏には、怯える彼女の姿が過っていた。
轟も拳を握り締め、静かに、しかし熱い怒りを込めて相澤を睨む。