第9章 囚われのお姫様
雄英高校、1-A女子寮。
の部屋の前には、一週間の間、重苦しい沈黙が漂っていた。
「……ちゃん、まだ具合良くないのかな。もう一週間も顔を見てないよ」
緑谷が心配そうにドアを見つめる。
インターンの合間を縫って何度も足を運んでいるが、返ってくるのはいつも同じ、力のない声だけだった。
「……ごめんね、出久くん。まだ、体調が悪くて……外に出られる状態じゃないの……」
「わかった、無理はしないで。何か必要なものがあったら言ってね」
緑谷の隣には轟も立っており、沈痛な面持ちでその様子を見守っていた。
ドアの向こうから聞こえる声は、紛れもなくのものだった。
少し掠れ、弱々しいその響きに、緑谷も轟も「重い体調不良」という言葉を疑うことはなかった。
だが、その背後に立つ爆豪勝己だけは違った。
彼は一週間、この扉の前を通るたびに胸の奥で燻る「違和感」に苛立ち続けていた。
「……おい。てめぇら、いつまでそうやって甘っちょろい事抜かしてやがる」
爆豪が静かに、だが威圧感を持って二人の間に割り込んだ。
「爆豪、無理に開けるのはよせ。今は休ませてやるのが――」
「どけっつってんだよ、半分野郎」
爆豪は迷いなく、ドアノブを掴んだ。
鍵はかかっていたが、掌から放たれた極小の爆圧が内部の機構を一瞬で焼き切り、扉を無理やり抉じ開ける。
「勝己くん!? 何するの……!」
部屋の奥、ベッドの上。
布団を被り、顔半分を隠して震えているがそこにいた。
緑谷は慌てて爆豪を止めようとする。
「かっちゃん! デリカシーがなさすぎるよ! 彼女、本当に辛そうで――」
だが、爆豪は緑谷の言葉を無視し、ベッドに歩み寄った。
そして、怯える彼女の顔を至近距離で覗き込む。
「……おい。……てめぇ、誰だ」
「な、何を……勝己くん、私だよ? だよ……?」
潤んだ瞳で自分を見つめる「」
姿形、声、は爆豪の知っている彼女そのものだ。
緑谷も轟も、爆豪が何を言い出したのかと息を呑む。
だが、爆豪の脳裏には、彼女と過ごした無数の記憶が激流のように駆け巡っていた。
視覚でも聴覚でもない。
本能が、隣にいた時の空気感が、眼前の存在を「偽物」だと拒絶していた。