第9章 囚われのお姫様
寮に入ると1-Aの面々が数名、リビングに集まっていた。
「お、お帰り。って、どうしたんだその顔。真っ青じゃねぇか」
真っ先に気づいたのは、切島だった。
友人に支えられて帰宅した彼女の異変に、リビングの空気が一変する。
「……あ、切島くん……。……少し、気分が悪くて……」
「おい、大丈夫かよ! 誰か、先生呼んで…」
「……あ……、いいの、寝れば治るから……。誰か、お部屋まで……連れていって……」
トガは伏せ目で、救いを求めるように周囲を見渡した。
「私が連れて行くわ。ちゃん、私に捕まって」
芦戸が心配そうに肩を貸し、トガをの部屋へと運んでいく。
エレベーターに乗り込む際、トガはこっそりと懐の中のスマホを操作し、GPSの発信を確認した。
(あはは、すごい……。このスマホ、ずっと監視されてる。愛されてるねぇ、ちゃん)
部屋に入り、ベッドに横たわると、芦戸は「何かあったらすぐ呼んでね」と言い残して去っていった。
一人きりになった密室で、トガはクスクスと笑い声を漏らす。
「体調不良」というもっともらしい盾は、最高の隠れ蓑だった。
周囲は「そっとしておいてあげよう」という心理に傾く。
トガはその心理を巧みに操り、薄暗い部屋の中で完璧に演じ続けていた。
コン、コン、と控えめなノックの音が響いた。
「ちゃん、僕だよ……。芦戸さんから聞いたんだ、大丈夫? 何か食べられそうなもの、持ってこようか?」
ドア越しに聞こえる緑谷の声には、隠しきれない焦燥と心配が混じっていた。
トガはベッドの上で口角を吊り上げながら、弱々しく、消え入りそうな声を作って返した。
「……出久くん、ありがとう。でも、今は……少し眠りたいの。ごめんね……」
「……そっか。わかった。ドアにスポーツ飲料とゼリーかけておくからね。無理しちゃダメだよ?」
「……うん、ごめんね……」
緑谷が去っていく気配を確認し、トガは鼻を鳴らす。
「あは、出久くん、本当いい子。でも、近くで見られたら目がキラキラしすぎててバレちゃうもんねぇ」