第8章 初めての寮生活
相澤による説教は、深夜の静寂に響き渡った。
仮免不合格という屈辱に加え、夜間の私闘。
謹慎と寮の清掃を言い渡された爆豪と緑谷は、疲弊と苛立ちを抱えながら、重い足取りで自室のある階へと戻った。
「……じゃあ、おやすみ。かっちゃん」
「……あァ? 死ね」
緑谷の言葉を短く切り捨て、爆豪は自室の並ぶ廊下を歩く。
苛立ちは収まっていなかった。
緑谷と拳を交わしたことで少しはマシになったものの、心の中に空いた大きな穴——敗北感と、焦燥感——が、どうしても埋まらない。
(あいつ……寝てんのか)
爆豪は自分の部屋を通り過ぎ、隣にあるの部屋の前に立った。
いつもなら、この時間は彼女の気配が扉越しに微かに伝わってくる。
それを確認するのが、彼の隠れた日課だった。
コン、と短くドアを叩く。
返事はない。
爆豪は眉を寄せ、ドアノブに手をかけた。
鍵はかかっていなかった。
静かに扉を引くと、そこにあるはずの熱がない。
ベッドは整えられたままで、主の姿はどこにもなかった。
「…………」
爆豪の視線が鋭さを増す。
時計の針は深夜を回っている。
この時間、彼女が自分の意志で出歩くはずがない。
だとしたら、行き先は一つしかなかった。
(……半分野郎のところか)
無意識に拳が、みしりと音を立てて握られる。
今すぐあそこのドアを蹴り破り、中にいる半分野郎を爆破して、震える彼女を自分の部屋へ引きずり込みたい衝動が、爆豪の脳内を支配した。
だが、彼は深く、長く、熱を吐き出すように息を吐いた。
「…………クソが」
ここで暴れれば、今度こそ退学もありうる。
そうなれば、彼女を誰の手も届かない場所へ囲うということすら手放すことになる。
爆豪は自制心で荒れ狂う独占欲を抑え込み、静かに彼女の部屋のドアを閉めた。
自分の部屋に戻り、ベッドに倒れ込む。
「……明日だ。明日、全部吐かせてやる」
暗闇の中、爆豪の瞳だけが爛々と輝いていた。
隣で別の男に抱かれている彼女の姿を想像し、疼く身体を鎮めるように、彼は深く、深く枕に顔を埋めた。