第2章 現代最強は彼女を手放さない 【呪術廻戦 五条悟】
あまりにもの弱さに五条に「鍛えてやる」と言われてから数ヶ月、いのりの日常は一変していた。
以前は直哉の顔色を伺い、その暴力に怯えるだけの日々だったが、今は筋肉痛と、そして五条から贈られる大量の「甘い誘惑」と戦う毎日だった。
「はい、ストップ。今日はここまで。……うん、体捌きはマシになったけど、やっぱり呪力の出力が不安定だったね」
訓練場の床にへたり込むいのりに対し、五条の声はどこまでも軽やかだった。
「はぁ、はぁ……っ、すみません……五条先生……」
「謝らなくていいって。ほら、これ食べなよ。京都の超限定わらび餅。並ばないと買えない逸品だよ」
五条が差し出してきたのは、明らかに自分用として買ってきたであろう高級な菓子箱だった。
いのりは目を丸くし、困惑の表情を浮かべた。
「えっ、でも、これ高いんじゃ……」
「いいのいいの。一生懸命ないのりへのご褒美!はい、あーん」
「せ、先生、自分で食べられますっ!」
顔を真っ赤にして固辞するいのりと、それを楽しそうにからかう五条。
そんな二人の様子を、遠くから見ていた二年生たちは、もはや隠そうともしない冷ややかな視線で眺めていた。
「……なぁ、またやってるぞ、あの目隠し。完全に自分の世界に入ってんな」
真希が竹刀を肩に担ぎ、吐き捨てるように言った。
パンダも隣で腕を組み、深く頷いていた。
「だな。昨日もいのりにだけ、仙台の銘菓を山ほど買い与えていたのを見たぞ。俺たちには『お土産忘れた、テヘッ』とか抜かしていた癖にな」
「しゃけ(同意)」
狗巻も、おにぎりの具だけで強い不満を表明していた。
三人は申し合わせたように、わらび餅をいのりの口に運ぼうと必死な最強呪術師のもとへ歩み寄った。