第4章 爆殺神は彼女を拾う 【ヒロアカ 爆豪勝己】
そして右手を、転がる男の顔面にゼロ距離で突きつける。
「……死なねぇ程度にっつったが、前言撤回だ。跡形も残さず消し飛ばしてやる」
「爆豪、やりすぎだ! 確保しろ!」
後方からジーニストの制止する声が響くが、今の爆豪の耳には届かない。
「爆豪、くん……ふっ、…っ!」
腕の中で子供のように泣きじゃくる彼女の震えを感じて、爆豪は辛うじて指先の爆発を抑え込んだ。
だが、その背中は激しく波打ち、向けられた殺意はヴィランを完全に再起不能にするまで収まることはなかった。
マンションの静寂が、かえっていのりの耳には直哉の嘲笑やヴィランの卑屈な笑い声を増幅させて届けていた。
ガタガタと震えが止まらない。
爆豪に抱きしめられていても、肌に残る「他者の感触」が、自分を再び禪院家の泥沼へと引きずり戻そうとしている気がして、いのりは息を乱した。
「……っ、は、あ……っ、ごめんなさい、爆豪くん、私……っ」
「謝んな。お前は何も悪くねぇ」
爆豪は、震える彼女の肩に大きな手を置き、包み込むように抱きしめた。
彼の体温はいつも通り高く、清潔な火薬の匂いがする。
それはこの世界で唯一、彼女を「モノ」ではなく「人」として繋ぎ止めてくれる錨だった。
「……嫌な記憶、全部消してやる」
爆豪は彼女の顎を優しく上向かせると、涙で濡れた頬を指で拭った。そして、迷うことなく唇を重ねる。
それは、直哉に無理やり奪われてきた荒々しい口付けとは正反対の、慈しみに満ちた熱だった。
触れるだけの、けれど深い慈愛を込めたキス。
いのりの脳裏を埋め尽くしていたどす黒い記憶が、爆豪の真っ直ぐな熱によって、白く、鮮やかに上書きされていく。
「ん、っ……ふ、……っ」
深く、甘い口付けが繰り返されるうちに、いのりの強張っていた身体が少しずつ解けていく。
爆豪の舌先が優しく彼女を導くたびに、恐怖ではなく、愛されているという実感が熱となって背筋を駆け抜けた。
「爆豪、くん……っ。……お願い。私を、抱いて……」
いのりは彼のシャツの胸元をぎゅっと掴み、潤んだ瞳で訴えた。
かつては「蹂躙」でしかなかった行為。
けれど今、彼女は初めて自分の意思で、このヒーローに「上書き」してほしいと願った。
「……お前、わかってんのか。俺は、もう我慢してやれるほどお人好しじゃねぇぞ」
