第4章 爆殺神は彼女を拾う 【ヒロアカ 爆豪勝己】
爆豪のマンションは、彼の性格を反映したように無駄がなく、どこか温かみのある空間だった。
「……う、おいしい……っ」
その日の夕食。
爆豪が手際よく作った生姜焼きを口にした瞬間、いのりの瞳からポロポロと涙がこぼれ落ちた。
禪院家での食事は緊張感と、冷えた疎外感に満ちていた。
誰かが自分のために作り、隣で同じものを食べる事が奇跡のように感じられた。
「おい、泣くほどかよ。……辛ぇなら言え、味付け変えてやるから」
「……いえ、本当に、美味しいです。……爆豪くん、凄いです」
照れ隠しにガシガシと頭を掻くヒーロー。
そんな彼に、いのりは意を決して切り出した。
「あの、爆豪くん。私……ここに置いてもらうなら、家事や料理をやらせてほしいんです。何もせず守られているだけなのは、その……余計に、自分がダメになりそうで」
爆豪は少し考え、彼女の切実な瞳を見てふんと鼻を鳴らした。
「勝手にしろ。ただし、無理して倒れでもしたら即刻中止だ。わかったな」
それから、爆豪の日常は劇的に変わった。
「ただいまー……。クソ、今日のヴィランはしぶとかったわ……」
深夜、パトロールを終えて疲れ果てた爆豪がドアを開けると、玄関には自分を待つ明かりが灯っていた。
そして、パタパタと駆け寄ってくる足音。
「おかえりなさい、爆豪くん! お疲れ様です」
エプロン姿のいのりが、少し眠そうな目を擦りながら微笑む。その瞬間、戦場での荒ぶる神経が、スッと凪いでいくのを爆豪は感じた。
「……ああ。飯、あるか」
「はい。すぐ温めますね。今日は爆豪くんの好きな、辛口の麻婆豆腐にしました」
キッチンから漂う芳しい香りと、自分の帰りを喜ぶ存在。
「……悪くねぇ」
「えっ?」
「……お前がここにいることだ」
ボソッと呟かれた爆豪の言葉に、いのりの顔が林檎のように赤くなる。
爆豪もまた、彼女の柔らかな笑顔に毒気を抜かれ、自分の中に芽生えた「この安らぎを誰にも渡したくない」という独占欲を、心地よく受け入れていた。
「爆豪くん、お風呂も沸いてます。先に食べますか? それとも……」
「……お前、その言い方は誤解を招くだろォが。……飯だ、飯。一緒に食うぞ」
不器用な二人の、甘く穏やかな夜が更けていく。
かつての地獄が嘘だったかのように、この部屋には幸せな熱が満ちていた。
