第4章 爆殺神は彼女を拾う 【ヒロアカ 爆豪勝己】
「……ここには、呪霊はいないんですか? 窓も、高専も……直哉、さんも……」
「呪霊? 悪いが、世の中を騒がせているのはヴィランと呼ばれる犯罪者たちだ。そして、それを倒すのが俺たちヒーローだ」
「ヒーロー……。……ああ、そうか。……本当に、いたんだ」
いのりの頬を、熱い涙が伝い落ちる。
禪院家では、強さは他者を踏みにじるための暴力でしかなかった。
直哉にとっての強さは彼女を組み敷き、所有するための道具だった。
けれど、目の前の少年が放つ熱は、自分を支配するためではなく、外敵から守るための、眩いほどの「光」だった。
ジーニストが静かに諭すように言った。
「君のいた場所がどこかは分からないが……。少なくとも、君を縛り上げていたような卑劣な男は、この世界では正義が許さない」
いのりの身体から、すうっと力が抜けていく。
(呪いがない……? 直哉さんも、禪院家も……ない?)
「……あ、……」
呆然とするいのりの視界に、涙が溢れた。
それは悲しみではなく、あまりにも唐突に訪れた「解放」への、震えるような戸惑いだった。
「おい、泣くなって。……クソ、こういうのは柄じゃねぇんだよ」
爆豪は顔を背けながらも、ベッドの端に腰掛け、逃げ出さないように見張るかのような、けれど確かな重みを彼女に伝えていた。
「おい、お前、行く宛てねぇなら、とりあえずここでハッキリさせろ。誰がこんな事しやがった。……俺が、ぶっ飛ばしてやる」
ぶっきらぼうな爆豪の言葉に、いのりは初めて、毒の混じっていない熱を喉の奥に感じた。
そして、この世界に「禪院直哉」が存在しないことを確信し、いのりは堰を切ったように語り始めた。
今まで誰にも言えなかった、禪院家という名の地獄を。
「……身内に、やられました。私のいた家では、呪力……力が無い女は、人間じゃないんです。ただ、強い種を宿すための『胎』。……私は、従兄の直哉さんの慰み者として、毎日……」
「ッ、……ふざけんな」
爆豪の掌から、パチパチと乾いた爆発音が漏れる。
身内が、あんな無惨な姿になるまで一人の少女を弄んでいた。
その事実は、ヒーローを志す彼の倫理観を激しく逆なでした。