第3章 影を操る彼は彼女を隠したい 【呪術廻戦 伏黒恵】
カーテンの隙間から、柔らかな朝の光が差し込む。
ホテルの白いシーツは昨夜の嵐のような情事の証拠に乱れ、室内にはまだ、二人の甘く熱い匂いが微かに残っていた。
「……ん、っ」
いのりが瞳を開けると、目の前には至近距離で自分を見つめていた伏黒の、どこか満足げでひどく優しい瞳があった。
「起きたか」
「めぐみ、くん……」
声を出すと喉が驚くほど枯れていた。
昨夜、何度も何度も彼の名前を呼んで、泣いて、縋り付いた記憶が鮮明に蘇る。
いのりは顔が火が出るほど熱くなり、思わず彼の胸元に顔を隠した。
「……身体、痛くないか? その……何度も、……悪かった」
伏黒は少しだけバツが悪そうに視線を逸らしながらも、布団の中でいのりの腰をそっと引き寄せる。
肌を合わせれば、彼の高い体温が伝わってきて、そこが昨日まで誰にも触れさせたくなかった「傷口」であったことなど、もう忘れてしまいそうになる。
「……ううん。……すごく、幸せだった。恵くんで、いっぱいになれた気がして……」
「……そうか。ならいい」
伏黒は愛おしさに耐えかねたように、彼女の額にキスを落とした。
その時、枕元で無機質なバイブ音が鳴り響く。
二人が顔を見合わせ、恐る恐るスマホを確認すると、画面には『五条悟』の文字。そして大量のメッセージ通知が届いていた。
五条悟:「おーい、恵〜? いのりちゃん〜? 任務報告がまだだよ〜♡」
五条悟:「もしかして、二人で『特別演習』中かな? 青春だねぇ! 朝帰り?」
「…………最悪だ」
伏黒が顔を覆い、深い溜息をつく。
二人の間に、昨夜のシリアスな空気とはまた違う、年相応の気まずさと甘い笑いが混じった空気が流れた。
「恵くん、どうしよう……野薔薇ちゃんたちにも、絶対バレてるよ……」
「……隠し通せるわけないだろ。お前の首筋、俺がこんなに跡つけたんだし」
伏黒は開き直ったように、わざといのりの首筋にある「上書き」したばかりの紅い痕跡を指先でなぞった。
直哉の呪縛を、宿儺の印を、自分の愛で塗り潰した証。
「禪院家が何を言ってこようと、お前は俺の隣にいろ。……高専に戻ったら、五条先生にも釘を刺しておく」
「……うん。……恵くんがいてくれるなら、私、もう怖くないよ」
いのりは彼の手を握り返し、幸せを噛みしめるように微笑んだ。
