第3章 影を操る彼は彼女を隠したい 【呪術廻戦 伏黒恵】
「恵君。君は将来の禪院を背負う器や。そんな、僕に散々汚された『使い古し』に構っとる暇はないんやで。それは元々、僕ら禪院の所有物なんやから」
直哉が嘲笑いながら一歩踏み出した、その瞬間。
伏黒の影が爆発的に膨れ上がり、地面を突き破って直哉の足元を狙い打った。
「っ……!」
直哉が超高速の動きでそれを回避する。
「……触れるな。その汚い口で、こいつの名前を呼ぶな」
伏黒は、震えるいのりの肩を力強く抱き寄せた。
彼女が経験してきた地獄。
自分と出会う前に、この男に奪われ、踏みにじられてきた尊厳。
そのすべてを、今の伏黒は受け止める覚悟を固めていた。
「こいつは俺の隣にいる一人の人間だ。お前らの道具でも、所有物でもない」
「恵君……君、本気で言うとるん? 他人の使い古しを、そんなに大事そうに……」
「……次だ。次、こいつを侮辱したら、お前の首を撥ねる」
伏黒の瞳には、かつてないほどの苛烈な殺意が宿っていた。
直哉は一瞬、その気迫に気圧されたように目を細めたが、すぐにまた軽薄な笑みに戻った。
「……まぁええわ。今日は顔見せや。けどな、恵君。一度刻まれた呪いは、そう簡単には消えへんで。身体が覚えとるもんやからなぁ」
直哉が背を向け、夕闇の中へ消えていく。
一人残された空間で、いのりは力なく膝をつきそうになった。
それを伏黒が必死に支え、耳元で静かに、けれど熱く囁く。
「……大丈夫だ。あいつには、二度と触れさせない。……俺がいる。お前を、俺の命に代えても守り抜く」
首筋の宿儺の傷。
そして、心の奥深くに刻まれた直哉の呪い。
過酷すぎる運命を背負った彼女を、伏黒は沈みゆく夕日の中で、ただ強く、折れそうなほど抱きしめた。