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禪院家の落ちこぼれシリーズ 【R18】

第3章 影を操る彼は彼女を隠したい 【呪術廻戦 伏黒恵】


八十八橋の事件から季節は巡り、いのりと伏黒の連携は洗練されていった。
虎杖や野薔薇を含めた四人での任務も多いが、互いの呼吸を知り尽くした「二人」での任務はどこか特別で、静謐な信頼に満ちていた。
その日も、郊外での任務を終えたばかりだった。

夕暮れの高専。
任務帰りの心地よい疲労感は、不意に現れた「異物」の気配によって霧散した。
正門へと続く坂道。
そこには高専の制服ではない、質の良すぎる和服を気だるげに崩した男が立っていた。

「……誰だ」

伏黒が足を止め、鋭い視線を向ける。
隣を歩くいのりは、その男の姿を捉えた瞬間呼吸を止めた。

「へぇ……噂の十種影法術の使い手。君が恵君か」

男——禪院直哉は、伏黒のことなど端から知っているという口ぶりで、薄笑いを浮かべた。
対する伏黒は目の前の男が何者なのか、その名すら知らない。
だが、溢れ出る呪力と鼻につく選民思想の臭いだけで、それが「禪院」に関わる人間であることは察しがついた。

「何の用だ。部外者が立ち入っていい場所じゃない」
「冷たいこと言わんといて。僕はただ、逃げ出した『飼い犬』を連れ戻しに来ただけや」

直哉の視線が、伏黒の背後に隠れるように立ち尽くすいのりへと移動する。
その瞬間、いのりの指先がガタガタと目に見えて震えだした。

「……久しぶりやなぁ。勝手におらんようになったから、心配してたんやで? 『胎』として僕に散々尽くしとった子が、まさかこんなところにおるとは」

伏黒の眉が、ピクリと跳ねた。

「胎……?」
「そうや。女は血筋を残してなんぼ。君も憶えとるやろ? 禪院におった頃、毎晩毎晩、僕の種を宿すためだけにその身体を差し出しとった日々を。泣き喚いても、最後には大人しく僕を受け入れとった、あの惨めな顔……」

直哉の言葉が、毒のように空気を侵食していく。
伏黒は、隣にいる彼女の絶望を肌で感じた。
出会った時、彼女が抱えていた他人を拒絶するような影。
何かに怯え、誰かに触れられるたびに強張っていた理由。
そのすべてが、この男が吐き出した卑劣な「事実」と繋がった。

「…………貴様」

伏黒の声が怒りで低く震えた。
初めて会う男。
名も知らぬ禪院の人間。
今この瞬間、伏黒にとって目の前の男は「排除すべき対象」へと変わった。
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