第3章 影を操る彼は彼女を隠したい 【呪術廻戦 伏黒恵】
「おーい、伏黒ー! いのりー!」
「伏黒、生きてるんでしょーね!」
遠くから、虎杖と野薔薇の声が響いてくる。
戦いを終えてボロボロになった二人が橋の下で目にした光景に、二人はピタリと足を止めた。
「……うわぁ。お熱いことだねぇ、虎杖」
野薔薇が呆れたように、けれどニヤニヤとした笑みを浮かべて腰に手を当てた。
「こっちは死に物狂いで戦いを終わらせてきたっていうのに、こっちは膝枕でおねんね中?」
「伏黒のやつ、すっかり安心しきっちゃって。いいなー、俺も誰かに膝枕してほしいわ」
虎杖が茶化すように口笛を吹くと、いのりは顔を火が出るほど真っ赤にして首を振った。
「ち、違うの! 恵くん、急に倒れちゃって、それで……!」
「はいはい、わかってるわよ。愛の力で特級倒したんでしょ。ご立派なことで」
「そんなんじゃないから! 二人とも、茶化さないで!」
いのりが必死に抗弁していると、膝の上で伏黒の眉がわずかに動いた。
薄らと目を開けた伏黒は、目の前に並ぶ虎杖と野薔薇のニヤけ面、そして自分を覗き込むいのりの真っ赤な顔を見て、一瞬で事態を把握したらしい。
「……………っ」
伏黒は音速で飛び起き、口元を片手で押さえながら視線を逸らした。耳の先まで真っ赤になっている。
「……お前ら、いつからいた」
「『名前なんてなくても、俺がこいつを大切にしてるのは事実だ』……だっけ?」
野薔薇が車での伏黒の台詞を完璧な物真似でリピートする。
「釘崎、やめろ……。殺すぞ」
「あはは! 伏黒、顔真っ赤だぞ!」
「もう! 恵くん、まだ安静にしてなきゃダメだよ!」
「……うるさい。歩ける」
不機嫌そうに立ち上がる伏黒だったが、ふらつく彼をいのりが慌てて支えると、彼は拒むことなくその肩に体重を預けた。
「……悪い。……助かった」
小さく、彼女にしか聞こえない声で呟かれたその言葉に、いのりはまた胸を熱くして頷く。
揶揄われても、傷だらけでも。
四人でこうして帰れる日常が、何よりも甘く、愛おしいものに感じられた。