第3章 影を操る彼は彼女を隠したい 【呪術廻戦 伏黒恵】
そんな二人の沈鬱な空気を切り裂いたのは、響く荒々しい足音だった。
「おいお前ら!抱き合って 何しけた面してんだよ」
身体を離し顔を上げると、そこには不敵な笑みを浮かべた真希と、パンダ、棘の二年生トリオがいた。
真希はスタスタと歩み寄ると、いのりの顔を覗き込む。
「なんだ、えらい落ち込んでんな。葬式じゃねーんだぞ」
「真希、やめとけ。こいつらは仲間を失ったばっかり……」
「しゃけ……」
「わかってるよ! だからこそ気合入れに来てやったんだろ。おい、いのり。そんな顔して呪霊が祓えるか?」
真希に詰め寄られ、いのりは力なく俯く。
「……すみません。でも、どうしても考えちゃうんです。もし私がもっと強ければ、虎杖くんも、こんな傷も……」
「甘ぇな」
真希が短く切り捨てる。
「死んだ奴のことは、生きてる奴が背負うしかねーんだよ。ウジウジ悩んでる暇があったら、その傷をつけた奴をぶっ飛ばす実力つけな。……恵が目をかけるくらいには根性あるんだろ?」
「……根性、ですか」
「そうだ。ツラいのは当たり前だ。でも、アンタが止まれば死んだ奴の時間は本当にそこで終わりだぞ」
真希の乱暴な、けれど真っ直ぐな言葉が、冷え切ったいのりの心に小さな火を灯す。
「……真希さん、言い過ぎですよ」
伏黒が間に入ろうとしたが、いのりはその袖を小さく引いた。
「大丈夫、恵くん。……真希さんの言う通りだね。私、いつまでも守られてるだけじゃ、虎杖くんに顔向けできない」
顔を上げたいのりの瞳に、少しだけ生気が戻る。
それを見た伏黒は、微かに安堵したように息を吐き、真希を睨みつけた。
「……次は俺が教えます。真希さんのしごきは極端すぎる」
「あ? 基礎から叩き直してやるっつってんだよ。行くぞ二人とも、グラウンドだ!」
「ちょ、真希さん! まだ心の準備が……!」
引きずられるように歩き出すいのりの後ろ姿を、伏黒は静かに見守る。
彼女の首に刻まれた呪印を見つめる彼の瞳には、二度と誰にも彼女を傷つけさせないという、静かな決意が宿っていた。