第3章 影を操る彼は彼女を隠したい 【呪術廻戦 伏黒恵】
六月の湿った風が、高専の廊下を通り抜ける。
いつもなら隣にいるはずの伏黒が、仙台での任務からボロボロになって帰ってきたと聞き、いのりは居ても立ってもいられず彼の部屋の前に立っていた。
「……恵くん、起きてる? 入るよ」
返事を待たずにドアを開けると、そこには頭に包帯を巻き、痛々しい姿でベッドに腰掛ける伏黒の姿があった。
「……いのりか。別に大したことない、寝れば治る」
「大したことないわけないでしょ。顔、腫れてるよ……」
心配で顔を歪め頬に添えられた彼女の手に、伏黒は少しだけ目元を和らげる。
だが、その静かな時間を破るように、背後の窓が勢いよく開いた。
「恵〜!」
「よっ! 伏黒、元気……っておお! 先客?」
「……っ、勝手に入らないでください!」
伏黒が顔をしかめる。
そこには相変わらずマイペースな五条と、見慣れない少年が立っていた。
「紹介するよ! 彼は虎杖悠仁くん。今日から君たちの同級生だ。あ、ちなみに宿儺の器ね」
「……え!? 宿儺の器!?」
「よっ! 虎杖悠仁です。よろしくな!」
「あ、えっと……禪院いのりです。よろしく……って、恵くん! 宿儺の指って、あの特級呪物でしょ!? 大丈夫なの!?」
混乱するいのりをよそに、伏黒は溜息をつきながらベッドから身を起こした。
「……見ての通りだ。こいつ、指を食ってピンピンしてやがる。おかげで俺は死にかけた」
「あはは、悪りぃ伏黒! 助けてくれた礼はいつか絶対するからさ!」
虎杖が屈託なく笑う。
「……五条先生、本当に入学させるんですか? 宿儺の器を」
「大丈夫大丈夫! 僕がついてるし、何より悠仁は面白いよ。それに、恵も一人でいのりを守るより、仲間が多い方が楽でしょ?」
「……俺は、別に……」
伏黒がボソッと呟く。
「……賑やかになるな、これからは」
その言葉には、どこか呆れたような、けれど新しい仲間を拒絶しない、伏黒らしい温度が宿っていた。
「さあ! そうと決まれば、あと一人の同級生を迎えに行こうか! いのりも悠二に色々教えてあげてね」
ボロボロの伏黒、天真爛漫な虎杖、そして最強の五条。
いのりが手に入れた「自由」な日々は、どうやらここからさらに騒がしく、加速していくようだった。