第3章 影を操る彼は彼女を隠したい 【呪術廻戦 伏黒恵】
竹下通りの喧騒の中、新入生最後の一人釘崎野薔薇は、そこに立っていた。
「……で、そっちのツンツン頭が伏黒で、隣のジャージが虎杖。それはいいわ。でも……」
野薔薇は品定めするように三人を見渡していたが、最後にいのりの前でピタリと止まった。
そして、それまでの不機嫌そうな顔を一変させ、パアッと花が咲いたような笑顔で彼女の両手を握りしめた。
「ちょっと! アンタ、可愛いじゃない! 同級生に女の子がいるなんて聞いてないわよ! 最高!」
「えっ、あ、ありがとう……。禪院いのりです。よろしくね、釘崎さん」
「野薔薇でいいわよ! よかったわぁ、ムサ苦しい男ばっかりだったらどうしようかと思った。ねえ、後で一緒に服見に行かない?」
グイグイと距離を詰める野薔薇に、いのりは目を白黒させる。
そんな二人を、伏黒は少し離れた場所から呆れたように眺めていた。
その後、五条に連れられてやってきたのは、呪いの気配が漂う古い廃ビルだった。
「今回は、悠仁と野薔薇の実地試験だ。二人は中へ!」
五条の指示に、虎杖と野薔薇が威勢よく飛び込んでいく。
一方で、ビル前の階段に腰を下ろしたのは伏黒といのりの二人だ。
「……行っちゃったね。私も、中に入って手伝った方がよかったのかな」
「いや、いい。今回はあの二人の力量を五条先生が見極めるためのもんだ。お前はさっきの釘崎に圧倒されて疲れてるだろ」
「あはは……確かに。でも、野薔薇ちゃん、明るくて素敵な子だね」
「……お前、あいつに気に入られすぎだ」
伏黒がどこか不満げに視線を逸らす。
「もしかして、恵くん、寂しかった?」
「……は? んなわけあるか。……ただ、これからはあいつらにペースを乱されるだろうから、お前は無理についていこうとするな」
「うん。でも、こうやって恵くんと二人で待ってるのも、変わらない気がして、安心するかも」
いのりが笑いかけると、伏黒は不器用そうに視線を彷徨わせた後、ボソリと付け加えた。
「……あいつらが戻ってきたら、次は四人だ。……お前が望んでた『自由』は、もっと騒がしくなるぞ」
「望むところだよ!」
ビルの奥から聞こえる爆発音と怒鳴り声。
新しく加わった仲間たちの気配を感じながら、いのりは伏黒の隣で、これまでになく晴れやかな空を見上げていた。
