第4章 ファインダー越しの君 【ハイキュー!! 黒尾鉄朗】
「……っ、もう食べられない。クロ、欲張りすぎだよ」
「あー……お前が『あれもこれも美味しそう』なんて言うからだろ。ほら、このローストビーフ、まだいけるか?」
ブッフェの活気ある雰囲気の中、二人は賑やかに皿を埋めていった。
自分で選んで取る楽しみは、格式高いホテルとはいえどこか文化祭の準備のようなワクワク感があって、二人の緊張を程よく解きほぐしてくれた。
やがて、会場に柔らかなアナウンスが流れる。
「まもなく、メディ◯レーニア◯ハーバーにて……」
その声に導かれるように、二人は他のゲストと共にテラスへと出た。
夜の煌びやかなショーを、いつもは「どのタイミングでシャッターを切るか」に心血を注いでいる🌸も、今はただ、隣にいる黒尾の腕にそっと触れながら、夢のような光景を瞳に映していた。
やがて、盛大なフィナーレを告げるパイロ花火が夜空に消え、ゲストたちが満足げな表情で室内のテーブルへと戻り始める。
「綺麗だったねぇ……。さ、クロ、私たちもデザート――」
戻ろうとした🌸の手首を、黒尾が少しだけ強く、引き止めた。
「……待て。もう少しだけ、ここにいろ」
「えっ、クロ……?」
黒尾は彼女の腕を掴んだまま、テラスの端、入り口からは街灯の影になって見えない死角へと彼女を誘った。
冷たい夜風が吹き抜けるはずなのに、重なった肌の熱さだけが際立って感じられる。
「これ。……バレンタインのお返し」
黒尾がポケットから取り出したのは、小さな、けれど品のあるネイビーの箱だった。
「え……いいの? 食事も予約してくれたのに」
「当たり前だろ。ホワイトデーっつってんだから」
箱を開けると、月明かりを反射して華奢なプラチナのチェーンが揺れた。
中央には、控えめながらも確かな輝きを放つ一粒の石が飾られている。
「……🌸。お前、朝、カメラ持ってこなかった理由、『デートだから』って言ったよな」
「……うん」
「俺も、今日はそのつもりで来た。……幼馴染としてじゃなくて、男として」
黒尾は彼女の瞳を真っ直ぐに見つめた。
いつも人を食ったような態度をとる彼が、今は余裕なんて一ミリもなさそうなほどに、真剣な顔をしている。