第1章 君を追いかける 相手 :相澤消太
潮風に混じって、聞き慣れた、けれど酷く荒い足音が近づいてくる。
「——🌸!!」
名前を呼ぶ声に弾かれたように顔を上げると、そこには息を切らし、髪も服も乱れたままの相澤が立っていた。
観光客で賑わう店内で、彼は周囲の目など一切気にせず、ただ一直線に🌸だけを見つめている。
「消太、くん……」
マイクが「おーおー、お出ましだ」と肩をすくめる。
相澤はテーブルに詰め寄ると、震える手で🌸の腕を、壊れ物を扱うように、けれど逃がさないほど強く掴んだ。
「……帰るぞ。話は、家で……いや、今ここでさせてくれ」
彼の瞳は、怒りではなく、泣き出しそうなほどの後悔と独占欲で、真っ赤に充血していた。
相澤は🌸の腕を掴んだまま、その場に膝をつくような勢いで視線を合わせる。
「……すまなかった」
絞り出すような声だった。
レストランの客たちが「何事か」とこちらを見ているが、相澤の瞳には🌸の姿しか映っていない。
「仕事だから仕方ないと、お前に甘えていた。……お前がどれだけ今日を、この一年を大切に思っていたか分かっていたのに、俺はヒーローであることを優先して、お前の心を置き去りにした」
掴まれた腕から、彼の指先の微かな震えが伝わってくる。プロヒーローとして、どんな絶望的な現場でも震えたことのないその手が。
「家を飛び出したお前の背中を見た時、心臓が止まるかと思った。……追いかけたかった。今すぐ全部投げ出して、お前を抱きしめたかった。……行かせたくなかったんだ、本当は」
相澤は一度、言葉を切って唇を噛み締めた。充血した瞳が、🌸の潤んだ瞳を真っ直ぐに見つめる。
「お前のいない部屋が、あんなに寒いなんて思わなかった。……🌸、頼む。俺にはお前が必要だ。お前が隣にいない人生なんて、俺には到底、合理的に歩めそうにない」
「……消太くん……っ」
🌸の目から、堪えていた涙がポロポロと溢れ出した。
その涙を、相澤は不器用な手つきで、けれどこの上なく愛おしそうに指で拭う。
「旅行は……予定通りにはいかないかもしれない。だが、今からでも、俺にできる償いをさせてくれ。お前が笑ってくれるまで、俺は今日を終わらせない」