第1章 君を追いかける 相手 :相澤消太
運ばれてきたドルチェのティラミスには目もくれず、🌸は手元のスプーンで白磁の皿をなぞっていた。
マイクがどれだけ明るく振る舞ってくれても、ふとした瞬間に、今朝の相澤の冷たいほどに冷静な声が耳の奥でリフレインする。
「……マイクさん」
「んー? どうした、このケーキ激ウマだぜ?」
「消太くん、私のこと……本当に好きなんでしょうか」
ぽつり、とこぼれた言葉。
マイクの手が止まり、サングラスの奥の瞳が真剣なものに変わった。
「私がいなくても、あの人はヒーローとして立派にやっていける。……むしろ、私みたいなのがいない方が、もっと合理的に動けるんじゃないかって…」
俯く🌸の視界に、涙が溜まっていく。
すると、マイクがふっと優しく笑って、深く椅子に背を預けた。
「🌸ちゃん、あいつはさ……君が思ってる以上に、君に依存してるんだぜ」
「依存……? あの消太くんが?」
「ああ。信じられないだろ? だけどあいつ、職員室でたまに死んだような顔してる時にさ、君の写真を見ると途端に顔つきが変わるんだ」
マイクは懐かしむように空を仰いだ。
「あいつにとって、ヒーローである時間は『削る』時間なんだよ。自分の心を、体力を、神経を。ボロボロになるまで使い切って、最後に残ったわずかな『自分』を、全部君に預けることで、あいつはなんとか人間を保ってる」
「……預ける?」
「そう。君が隣にいるから、あいつはまた明日も死ぬ気で戦えるんだ」
マイクはスマホを取り出し、既読スルーされ続けている相澤への送信履歴を見せた。
「俺が写真を送るたびに、あいつから『どこだ』『そこを動くな』って、殺気立った返信が秒で来るんだ。あんなに余裕のない消太、学生時代以来だ。……あいつ、今頃必死にこっち向かってるぜ。君を失うのが、世界が終わるより怖いんだよ、あいつは」
🌸の胸の奥が、ぎゅっと締め付けられた。
「合理主義者」の仮面の下で、自分と同じように——いえ、それ以上に無様に焦り、自分を求めてくれている。
「……私、わがままだったかな」
「わがまま言わなきゃ、恋人なんてやってらんねーだろ? ほら、涙拭けよ。主役が台無しだ」
マイクがハンカチを差し出した、その時。
レストランの入り口の方が、にわかに騒がしくなった。