第4章 ファインダー越しの君 【ハイキュー!! 黒尾鉄朗】
「……年パス? お前、あの高けーやつ持ってんの?」
「うん。バイト代貯めて更新したんだ!だからクロの分だけ取ればいいよ、気にしないで!」
あまりの「ガチ勢」っぷりに、黒尾の『かっこいい俺』計画は早くも出鼻を挫かれた。
思わず拍子抜けして肩を落とすが、すぐに気を取り直す。
「……ったく。じゃあ、メシだ。メシは俺が最高にいいとこ予約してやるからな。文句言うなよ」
そこからの黒尾は、受験勉強の時以上の集中力を発揮した。
慣れない情報誌を何冊も買い込み、ネットの口コミを隅々までチェック。
「ここは景色がいいけど少し騒がしい…ここは料理はいいがロマンチックさが足りない」
独り言を呟きながら、ついに港の見える、雰囲気抜群のレストランの予約をもぎ取った。
「……よし、ショーの時間も考慮済み。……完璧だわ」
3月14日ホワイトデー当日。
駅の改札前で、黒尾は自分の心臓の音が聞こえるんじゃないかという緊張感の中にいた。
「クロ、お待たせ!」
人混みの向こうから駆けてきた🌸を見て、黒尾は思わず目を見開いた。
いつもの機能性重視な服装ではなく、春らしい柔らかな色合いのワンピース。
そして何より驚いたのは、彼女の肩に、あの「大砲」のようなカメラバッグがなかったことだ。
「……あれ。お前、今日カメラは? 忘れたのか?」
「ううん、今日は持ってこなかったよ。スマホでも写真は撮れるしね」
🌸は少しはにかんで、小さなサコッシュを叩いて見せた。
「せっかくのデートだもん。今日はレンズ越しじゃなくて、自分の目でたくさん楽しもうかなって。……ダメ?」
「…………っ、ダメなわけねーだろ」
上目遣いで覗き込まれ、黒尾の顔は一瞬で茹で上がった。
「カメラを持っていない彼女」は、いつもよりずっと隙があるように見えて、それでいて目が離せないほどに「女の子」だった。
「よし! じゃあ行こう、クロ。私、今日が楽しみすぎて昨日あんまり眠れなかったんだから!」
「おい、引っ張んなって……。……っ、」
差し出された手に、彼女の指が絡む。
いつもは「幼馴染の腐れ縁」として繋いでいたはずの手が、今日は全く別の意味を持って熱を帯びていた。
黒尾は慌てて顔を逸らし、彼女に引かれるまま電車に乗り込んだ。