第3章 幼馴染は卒業します 【ハイキュー!! 孤爪研磨】
放課後の体育館には、バレーの快音とともに、甘い香りがふわりと漂うのが日常になっていた。
「おーし、休憩! ……って、お前ら群がりすぎだろ」
黒尾が苦笑いしながらタオルを回すと、部員たちは吸い寄せられるようにコートの端へ集まっていく。
そこには🌸が、焼き上げたばかりのフィナンシェを広げていた。
「……あ、黒尾さん。今日のはちょっと焼き色が濃くなっちゃったんだけど」
「いいのいいの。🌸ちゃんの手作りなら、炭になっててもリエーフが食うから」
「ひどいっすよ黒尾さん! ……モグ、うまっ! これ、マジで店出せますって!」
相変わらずの賑やかさ。
黒尾は、🌸がなぜこうも頻繁に差し入れを持ってくるのか、その真意を疾うに察している。
だが、口に出して研磨を助ける義理はない。
何より、このクオリティのお菓子がタダで食べられる特権を手放すほど、彼はお人好しではなかった。
(……ま、研磨のあの死んだような目を見るのが、一番のスパイスだけどな)
黒尾がニヤリと視線を送った先。
研磨はドリンクボトルのキャップをいじりながら、輪に入ることなく、じっとこちらを凝視していた。
最近の🌸は、差し入れついでにボトルの準備やタオルの洗濯まで手伝ってくれるようになり、もはや準マネージャーのような立ち位置だ。
おかげで部員たちともすっかり打ち解けていた。
「🌸さーん! このカゴ、あっちに運べばいいんすか!?」
「あ、うん。お願い、リエーフくん」
「任せてください! 俺、力持ちですからね!」
リエーフが長い腕をぶんぶんと振り回しながら、🌸の隣で楽しそうに跳ねる。
大型犬が飼い主にじゃれつくようなその光景に、研磨の堪忍袋の緒が、静かに、しかし確実にぷつりと切れた。
「……リエーフ」
「うおっ、孤爪さん!? びっくりした、いつの間に背後に……」
いつの間にか背後に音もなく立っていた研磨。
その瞳は、心なしかいつもより据わっている。
「……あそこのボール、散らばりすぎ。拾ってきて」
「えっ、でも今休憩中だし、あとでみんなで……」
「……今、すぐ。一球残らず、綺麗に並べて。……できないの?」
「ひっ……! や、やります! 余裕っす!!」