第10章 鬼狩りの受難 【REBORN 雲雀恭弥】
一瞬の油断。
それだけで十分だった。
彼女は躊躇なく、空へと身を投げ出す。
「水の呼吸、九ノ型――水流飛沫!」
着地の瞬間、彼女の周囲に幻の波紋が広がる。
落下の衝撃を流れる水のように逃がし、音もなく地面に着地すると、そのまま一度も振り返らず校門を抜けて街へと駆け出した。
屋上の縁に立った雲雀は自分の空になった両手を見つめ、それから眼下を走る少女の背中を凝視した。
「……僕の武器を弾き飛ばし、あんな高さから無傷で……」
不快感は消えていた。
あるのは、剥き出しの好奇心。
「並盛に、あんな面白い生き物がいたなんてね……。絶対に咬み殺す」
「……はぁ、はぁ……っ!」
一方、🌸は必死に走り続け、ようやく人通りの少ない裏路地に逃げ込んだ。
コンクリートの電柱、自動販売機、電線。
「……戻って、きた……?」
一瞬、胸が熱くなった。
見慣れた「現代」の風景。
大正の、鬼と血に塗れた世界ではない、平和な日常。
だが、すぐに違和感に気づく。
何かが微妙に違うきがする。
(……ここは、どこ……? 私、本当に帰ってこれたの……)
安堵は一瞬で、深い孤独と不安に塗り替えられた。
頼れる身寄りもなく、路銀もない。
隊服姿で刀を提げた自分は、あまりにも異質だ。
その時、頭上の塀の上から音がした。
「チャオっス。いい『風』だったぞ、お嬢ちゃん」
「……えっ?」
振り向くと、そこには黒いスーツを着こなした赤ん坊が座っていた。
その漆黒の瞳には子供とは思えぬほどの知性と、すべてを見透かすような鋭さが宿っている。
「……あ、赤ん坊……? なんで、喋って……」
「俺はリボーン。さっきの雲雀とのやり取り、見せてもらったぞ」
リボーンは、帽子の上のトカゲ――レオンを指先で弄びながら、不敵に微笑んだ。