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ヒーローと彼女の物語【ヒロアカ夢短編集】

第1章 君を追いかける 相手 :相澤消太


背後から追いかけてくる足音は聞こえない。
彼はきっと、今ごろ「合理的」に現場へ向かっているだろう。それが彼の正義で、彼が守りたい世界なのだ。

「……バカ。大っ嫌い」

ポツリと溢れた言葉は、誰に届くこともなく風に消えた。
行き先なんて決めていない。
ただ、彼の色に染まったあの部屋に、今は一秒もいたくなかった。


家を飛び出したものの、行くあてなんてどこにもなかった。
🌸は住宅街の隅にある小さな公園のベンチに力なく腰を下ろした。
春の柔らかな日差しが、涙で冷えた頬を容赦なく照らす。
膝の上で握りしめたスマホは、さっきから一度も震えない。

(……追いかけても、来ない…)

分かっていた。
彼は「合理主義」の塊だ。
感情に任せて家を飛び出した彼女を追いかけるよりも、今まさに助けを求めている市民のために現場へ向かうことを選ぶ。
それが、🌸が惚れた「相澤消太」という男なのだから。
けれど、頭で理解できても、心が追いつかない。
その時、手の中でスマホが短く震えた。
通知欄には「消太くん」の文字。
期待と、まだ消えない怒りが混ざった震える指でメッセージを開く。


『GPSで確認した。今は〇〇公園にいるな。動かずにそこにいろ。』
「……っ、なんなのよ、もう」

🌸は思わず鼻をすすった。
心配しているのか、それともただの監視なのか。
相澤は以前、ヒーローという職業柄、彼女がヴィランに狙われる可能性を考慮して、互いの位置情報を共有することを提案してきた。
あの時は「愛されている」と感じたその機能も、今ばかりは逃げ場を奪われたような気分になる。
続いて、二通目が届く。

『現場が片付いたらすぐに向かう。説教も、怒りも、後でいくらでも聞く。だから頼む、今は勝手に遠くへ行くな。……大人しく待っててくれ。』

命令形のあとに添えられた、彼なりの精一杯の「お願い」。
画面越しでも、彼が眉間に深く皺を寄せ、焦りながら文字を打っている姿が目に浮かんだ。
🌸は画面を消し、胸にスマホを押し当てた。
彼は今、この瞬間も誰かのために戦っている。
その「誰か」の中には、きっと自分も含まれているのだ。
相澤はGPSの画面で、彼女のアイコンが公園から動かないことを確認したのだろう。その後、一言だけ短いメッセージが届いた。

『すぐ終わらせる。』


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