第1章 君を追いかける 相手 :相澤消太
窓の外は、せっかく新調した旅行用のワンピースがよく映えそうな快晴だった。
けれど、玄関に立つ相澤消太の口から漏れたのは、行き先の地名ではなく、聞き飽きたはずの「すまない」という言葉だった。
「……また?」
🌸の声が、自分でも驚くほど冷たく響く。
「急遽、ヴィラン連合の残党に動きがあった。……俺が行かないわけにはいかない」
「分かってる。消太くんはヒーローだもんね。仕事が大事なのは、付き合う前から分かってたよ…でも、1ヶ月前から休み合わせて、やっと取れた連休なのに」
「……ああ。本当に申し訳ないと思ってる」
「思ってるだけじゃん! いつもそう。デートの約束しても『補習が入った』、レストラン予約しても『パトロールが長引いた』。私はいつだって二の次で、消太くんの都合のいい時にだけ隣にいればいいの?」
相澤の眉間に、深い皺が寄る。彼は一歩踏み出し、🌸の肩に手を置こうとした。
「🌸、落ち着け。感情的になるな。……帰ったら、必ず埋め合わせはする」
その「合理的」で冷静なトーンが、今の🌸には何よりも残酷に響いた。
「『落ち着け』? 私がどれだけ楽しみにしてたか、消太くんには一生分かんないよ。……埋め合わせなんていらない。もう、期待するの疲れちゃった」
🌸は彼の手を振り払い、叩きつけるように靴を履いた。
「おい、どこへ行く。外は——」
「どこでもいい! 消太くんのいないところに行くの!」
「🌸!」と呼ぶ低い声を背中で聞きながら、彼女は財布とスマホだけを掴んで、家の扉を飛び出した。
外の空気は、皮肉なほどに春の香りがして温かい。
🌸は駅までの道を、走るようにして進んだ。視界が涙でぐにゃりと歪む。
(我慢してたのは、私の方だよ……)
連絡がなくても「忙しいんだ」と言い聞かせ、深夜に帰宅した彼が泥のように眠る横顔を見ては、寂しさを飲み込んできた。
彼を支えるのが自分の役目だと信じていたから。
けれど、今日だけは「ヒーローの相澤消太」ではなく、「恋人の消太くん」を独り占めしたかったのだ。