第2章 トリュフと秘密の寄り道 【ハイキュー!! 北信介】
「北くん」
隣で🌸がカバンの奥から小さな、けれど丁寧にラッピングされた箱を取り出した。
「……はい。ハッピーバレンタイン」
差し出されたのは、部員たちに配った透明な袋とは違う、深いネイビーのリボンがかけられた上品な箱。
「……俺に?」
「……せや。……開けてみて」
北の指先が、壊れ物を扱うようにリボンを解く。
蓋を開けると、そこには粉雪を纏ったような、つやつやとしたトリュフショコラが並んでいた。
「……クッキーやないんやな」
「うん。みんなには『いつもありがとう』のクッキー。でも、北くんにはこれにしたかったんよ」
🌸は、北のコートの袖を、遠慮がちにつかんだ。
「北くん……バレンタインのお菓子に意味があるの、知っとる?」
「意味……? いや、考えたこともなかったわ」
「ふふ、北くんらしいね。……あのね、クッキーは『あなたは友達』っていう意味なんよ。サクサクしとるし、たくさん作りやすいからかな」
その言葉に、北の喉が微かに動いた。
視線が箱の中のチョコと、🌸の瞳を彷徨う。
「じゃあ……このチョコは?」
🌸は、少しだけ背伸びをして、北の耳元に顔を寄せた。
甘いチョコの香りと、彼女の体温が北の感覚を支配する。
「チョコレートはね……種類によっても色々な意味があるんだけどね……トリュフにはね、『あなたは特別』って意味があるんよ」
真っ赤になった顔を隠すように、🌸は一気に言葉を紡いだ。
「北くんには、特別なものを渡したかった。……私の特別は、北くんだけやって伝えたくて。世界で一番、……大好きやから」
静寂が、二人を包み込む。
北はしばらくの間、宝石のようなトリュフを見つめていた。
やがて、彼は一粒を口に運び、ゆっくりと味わうように目を閉じた。
「……甘いな」
「……チョコ、甘すぎた?」
「いや。……心臓の奥まで、甘いわ」
北は空いた方の手で、🌸の冷えた手をそっと包み込んだ。
大きな、けれど驚くほど優しい掌。
「『特別なもの』、ちゃんともらったで。……おおきに。俺も、お前が『特別』や」
北が顔を寄せ、二人の距離が重なる。
コートの落ち葉が風に舞う音さえ聞こえないほど、二人の鼓動は静かに、けれど強く共鳴していた。