第8章 一日遅れのショコラと、プロポーズ【 REBORN ディーノ】
厚く垂れ込めた雲からは、今にも白い雪がこぼれ落ちそうだった。
吐き出す息が真っ白に染まる極寒のバレンタイン当日。
この日のために一日予定を空けたというディーノに合わせ、🌸は少しの背徳感を感じながらも、午後の講義をこっそりサボることに決めた。
「悪いな、俺のために学校までサボらせちゃって」
「いいえ。……私の方こそ、どうしても今日、お会いしたかったので」
凍えるような空気の中でも、🌸の胸のうちは火照るように熱い。
学校をサボってまで彼と過ごす昼間の街は、どこか現実味のない、夢のような色彩を帯びていた。
「寒いな。🌸、手……冷えてないか?」
ディーノが心配そうに覗き込んでくる。
恋を自覚してからの彼は、今まで以上に「一人の男性」として意識せざるを得ない存在になっていた。
優しくされるたびに胸がキュンと引き締まり、視線を合わせるだけで言葉が詰まってしまう。
「だ、大丈夫です。……でも、少しだけ、寒いです」
思わず本音が漏れると、ディーノは彼女の小さな手を包むと自分のコートのポケットへと導いた。
ポケットの中で重なった肌の温度に、🌸の心臓は爆発しそうなほど跳ね上がる。
(どうしよう……。顔、絶対真っ赤だ……)
バッグの中には、昨夜一生懸命作ったチョコレート。
それを渡す瞬間を想像するだけで、足元がふわふわと浮き上がるような心地がした。
周囲からは、まるで映画の撮影でもしているかのような美男美女のカップルに見えているだろう。
だが、その実態は、初恋のように初々しい想いを抱えた二人だった。
冬の澄んだ空気に包まれた並盛植物園。
温室の中は外の寒さが嘘のように暖かく、色鮮やかな花々が二人を歓迎していた。
「あ、この花……『初恋』っていう花言葉があるんですよ」
🌸が指差した小さな花を、ディーノは愛おしそうに見つめた。
「へぇ、いい言葉だな!こっちは……『あなたを愛しています』か。花言葉で会話するのも、悪くないな」
二人はそんな穏やかな会話を楽しみながら、ゆっくりと距離を縮めていった。
ディーノが段差で躓きそうになるたび🌸がその腕を支え、二人は顔を見合わせて笑い合う。
そんな、ありふれた幸せを噛みしめるような時間だった。