第5章 その一瞬を切りとる君 【ハイキュー!! 宮侑】
「今のトス! サム、打ちやすかったやろ!? 感謝しろや!!」
「……おん。打ちやすすぎて、逆に怖いわ」
治は自分の手のひらを見つめながら、呆れたように息を吐いた。
セットアップの精度、ボールの下に入るスピード、そして何より、全身から溢れ出る「俺は今、世界で一番幸せや!」というオーラ。
それを見た監督が、不思議そうに顎をさすりながら歩み寄ってきた。
「……治。侑に、何があったんや。さっきまで、あんなにひどかったのに」
「……監督。あいつの動力源は、ガソリンやなくて『糖分』やったみたいですわ」
治がギャラリーの隅を指差すと、そこには顔を真っ赤にしながら、そそくさと立ち去ろうとする🌸の後ろ姿があった。
「あー……なるほど。それ、どんなドーピングより効くわ」
角名がボソリと付け加える。
「自分ら、手ぇ抜くなよ!! 次、俺がサービスエース五連続決めたら、今日のご飯は豪華なやつやからな!!」
「誰が決めたんや、そんなルール!」
「俺や!! 今の俺には、不可能なんてないんや!!」
完全に調子に乗った侑のトスは、その後も一糸乱れぬ精度でアタッカーたちを操り続けた。
あまりの変貌ぶりに、最初は心配していた部員たちも、最後には「単純すぎて、もはや尊敬するわ……」と遠い目をし始める。
練習後、部室に戻るなり、侑は大事そうに鞄の中に「箱」をしまった。
「ツム。それ、もったいぶってんと、はよ食べたらええやん」
治が茶化すように言うと、侑は「アホか!」と一蹴した。
「これはな、賞味期限ギリギリまで拝んでから食べるんや! 自分らみたいな、そこらのクッキーで喜んどる奴らには、この一粒の重みはわからんわ!!」
「……さっきまで一緒にクッキー食うてたんは誰やねん」
治のツッコミも、今の侑の耳には届かない。
彼は窓の外、もう暗くなった校門の方を見つめながら、デレデレとした締まりのない顔で独り言を漏らした。
「……へへっ。一番の男前、絶対撮らせたるからな」
その背中を見ながら、角名が「……これ、明日にはまた元に戻ってなきゃいいけど」と呟いたが、その予感は、明日も続くであろう侑の「無敵モード」によって、見事に裏切られることになるのだった。