第5章 その一瞬を切りとる君 【ハイキュー!! 宮侑】
「クッキーは、みんなの分。これは、侑くんの分。……特別なチョコ、侑くんにしか用意してへんもん」
「……っ!!」
一瞬の沈黙。
次の瞬間、侑の大きな瞳にみるみるうちに涙が溜まり、ポロポロと零れ落ちた。
「え、ちょっ、侑くん!? なんで泣くん!? 嫌やった!? 味に自信ないけど、毒は入ってへんよ!」
「……な、泣いてへんわ! 誰が泣くか、アホ! ……これは、その、外の空気が冷たすぎて、目がバグっとるだけや!」
「嘘やん、めちゃくちゃ泣いてるやん!」
侑は袖で乱暴に目を拭ったが、溢れる感情は止まらない。
そんな彼を見て、🌸はふっと柔らかく笑い、静かに言葉を重ねた。
「……私な、ずっと言いたかったんよ。去年のユ◯バ、カメラなしで一緒に回ったん、めちゃくちゃ楽しかった。……それに、春高。あんた、ほんまにかっこよすぎたんやから。レンズ越しじゃなくても、しっかり焼き付いとるよ」
「……あかん、自分、それは反則や……」
侑の限界だった。
彼は一歩踏み出すと、驚いて目を見開く🌸を、壊れ物を扱うように、けれど力強く抱きしめた。
「……侑くん!?」
「……ちょっと黙っとけ……。今、世界で一番幸せやから。……来年、絶対日本一獲る。そんで、その瞬間、自分に一番特等席で撮らせたる。……約束やぞ」
「……うん。わかった。特等席で、逃さず撮らせてもらうわ」
体育館からは、練習の喧騒が聞こえてくる。
けれど、夕焼けに染まるこの場所だけは、甘いチョコの香りと、二人の少し速い鼓動だけが響いていた。
「――っしゃあああ!! 見たかボケェ!!」
体育館中に、侑の猛り狂うような咆哮が響き渡った。
放たれたジャンプサーブは、凄まじい勢いでエンドラインぎりぎりに突き刺さる。
監督から「頭冷やせ」と言われていた数分前までのどん底っぷりが嘘のような、キレッキレのノータッチエースだった。
「……えぇ、何やねんあいつ。急にエンジンかかりすぎやろ」
銀島が引き気味に呟く。
横では、角名が真顔でスマホを構え、コート内で一人お祭り騒ぎをしている侑を録画していた。